防災から多重防御・減災へ とくに海岸林による減災効果について
東北地方太平洋沖地震津波では,防潮堤,防波堤など多くの防災施設が破壊され,ハード対策だけで人々の生活を守ることはできない事実を突きつけられた。しかも,わが国では,より人口の集中する地域である首都圏直下型地震や南海トラフ沿いでの巨大地震と津波の発生が予想され,その対策が急がれている。各方面で「防災」から「多重防御」,「減災」の考え方が示されている中,海岸林の減災効果は重要であり,減災対策の一環として位置づけられるべきものである。
本書は,近年発生したインド洋大津波やインドネシアでの津波の事例などを加え,広く同様の災害が多発している熱帯アジアを対象としている。過去の津波の際,海岸林はどのような減災効果を果たしたのか,現在の海岸林である砂丘上のクロマツ林,熱帯アジアのアダン林,ラグーン湿地でのマングローブ林など,海岸林の自然構成はどのようなものなのか,わが国の海岸防災林造成の歴史,およびそれらの海岸林が果たした減災効果について,生態学,林学,水理工学のそれぞれの視点から検証を進めている。
また津波の力学特性や数値計算による減災効果の検証から,海岸林の限界,課題についても考察している。その上で,今後あるべき多様な植生によるバイオシールドとしての海岸林の再構築案と,地域の自然環境や他の防災対策との関連の中で,沿岸部のグランドデザインについて提案している。
書籍の内容の理解を高めるため多くの写真,図版を使用した。また,書籍の補足の意味で,インターネットなどの情報システムを活用し,関連ウェブサイトを紹介,同時に著者らもウェブサイト上に関連情報を掲載した。