ニューロダイナミクス

書籍情報
ISBN978-4-320-12245-1
判型A5
ページ数240ページ
発行年月2010年02月
本体価格4,000円
ニューロダイナミクス 書影
ニューロダイナミクス

本書は,脳に代表される多様な神経ネットワークをダイナミカルシステムの観点からとらえ,基礎理論から非線形ダイナミクスまでを系統的に解説したものである。
 1940年代にニューラルネットワークに関する重要な論文が2編発表されている。1つは,McCullochとPittsによるニューロン素子とコンピュータの論理素子を結びつけた論文,他の1つは,Hebbによるニューロンの学習モデルである。ついで,1950年代後半に,Rosenblattが生物を模擬した学習モデルとして,パーセプトロンを提案した。パーセプトロンは,修正可能な重み係数(シナプス荷重)をもつニューロン群を並列に配置した学習層と前後の入力層,出力層から構成される。Rosenblattは線形分離可能なデータ群を教師信号として用いたとき,パーセプトロンは2つのクラスを分離する超平面を学習できることを証明している。
 その後,ニューラルネットワークの研究は一時的に停滞した。しかし,1970年代後半から1980年代にかけて,多層フィードフォワード・ニューラルネットワークの研究が活発になる。隠れ層と呼ばれる複数の中間層に対する学習アルゴリズムである誤差逆伝播法が開発されたことによる。学習時間,収束性など多くの理論的課題を抱えながらも,多層ニューラルネットワークは,信号処理,パターン認識,制御,ロボティクスなど,非常に広範囲の分野で応用されている。
 一方,HodgkinとHuxleyは,1952年にヤリイカの巨大神経線維を用いた実験から細胞膜の電気的性質について詳細な解析を発表し,ニューロンの活動電位がナトリウムおよびカリウムイオンに対する細胞膜透過性の一過性変化によって生じることを示した。さらに,その電流がナトリウムとカリウムそれぞれに対する固有のチャネルを通って流れることを予測し,等価回路に基づく有名なHodgkin-Huxley方程式を提示した。このニューロン活動の電位変化は非線形ダイナミクスの分岐現象の一種であると考えることができる。
 また,よく知られているように,視覚,聴覚,触覚などの感覚入力情報は,大脳皮質のそれぞれの領野に位相保存ニューラルマップとして写像される。このニューラルマップは,後段で行われる高度な情報処理の基盤を構成しており,少しずつ異なる特性をもつフィルターからなるニューロン群である。大脳皮質をはじめ生体の各部位で見つけられたニューラルマップに刺激されて,1970年代から80年代にかけて自己組織化マップの手法が開発され,多くの分野で応用されている。
 しかしながら,生物の神経ネットワークにはさまざまな多重フィードバックループが存在する。これらの神経ネットワークでは,内部で相互結合したニューロン集団が互いにフィードバック結合している点に特徴がある。静的写像である自己組織化マップやフィードフォワードネットワークでは,これらの機能を表現することはできない。このため,近年,非線形ダイナミクスに基づくリカレントネットワークやそれらを相互に結合したネットワーク群に関する研究が盛んに行われ多くの成果が得られている。
 以上の背景から,第1章では,ニューロンおよびそのネットワークを記述するニューロダイナミクスモデルの概要および応用分野について紹介し,第2章では,まず線形システムの表現と位相面解析を説明し,つぎに非線形システムの平衡点,リミットサイクル,分岐,安定性,入出力応答等について概要を述べ,ダイナミカルシステムの基礎を解説している。
 第3章から第5章までは,学習アルゴリズム,フィードフォワード・ニューラルネットワーク,自己組織化マップについてまとめ,ニューラルネットの基礎知識を与えている。
 第6章は,ダイナミカルシステムを表現するのに必須の構造であるリカレントネットワークの学習法と神経回路モデルへの適用例を紹介し,第7章では,動的ニューロン素子によりネットワークを構成したときの分岐ダイナミクスについて述べるとともに,ニューロンモデルおよび分岐ネットワークモデルについて解説している。第8章は,生物の神経回路で多くの例が見つかっているニューラルオシレータについて,そのモデル記述法を解説するとともに,引き込み,同期,分岐によるリズム生成について述べている。
 最近の脳科学の進展は著しいものがあり,BCI (Brain-Computer Interface)やリハビリテーション応用なども現実の話になりつつある。本書で扱っているニューロダイナミクスは,計算論的神経科学の基礎を与えるものであり,知能システム科学,ロボティクス,認知科学,生物科学などの学部,大学院向けの教科書に適しているだけでなく,関連する分野の技術者,研究者にとっても有用な参考書となる。(「まえがき」より)

目次

第1章 序論
1.1 ニューロン
1.2 ニューロダイナミクスモデル
1.3 ネットワーク構造
1.4 どんな問題に?

第2章 ダイナミカルシステム
2.1 ダイナミカルシステムと状態空間
2.2 線形システム
2.3 非線形システム
2.4 安定性とリアプノフ関数
2.5 入出力応答

第3章 学習アルゴリズム
3.1 学習方式
3.2 誤差修正法
3.3 ヘブ学習
3.4 強化学習
3.5 最適化法

第4章 フィードフォワード・ニューラルネットワーク
4.1 線形適応フィルター
4.2 パーセプトロン
4.3 多層ニューラルネットワーク

第5章 自己組織化マップ
5.1 正規化理論
5.2 自己組織化マップ(SOM)
5.3 感覚-運動マップ

第6章 リカレントネットワーク
6.1 ネットワーク構造
6.2 ホップフィールドネットワーク
6.3 リカレントネットワークの学習法
6.4 階層リカレントネットワーク
6.5 多形神経回路モデル

第7章 ネットワークダイナミクス
7.1 ニューラルネットワーク
7.2 分岐ダイナミクス
7.3 ニューロンモデルと分岐
7.4 分岐ニューラルネットワークモデル

第8章 ニューラルオシレータ
8.1 Wilson-Cowanモデル
8.2 緩和振動子モデル
8.3 位相振動子モデル
8.4 ニューラルオシレータの構成

付録 ジョルダン標準形式と二次形式
A.1 ジョルダン標準形式
A.2 二次形式

参考文献