■特集 幹細胞の運命を決定するシグナル
ES細胞の自己複製を維持するシグナル
山中伸弥
マウスES細胞の自己複製を維持する因子として,サイトカインLIFとその下流で機能する転写因子STAT3の重要性がよく知られている.また,ホメオボックス転写因子Oct3/4も必須である.しかし,LIFはヒトES細胞の自己複製を維持できない.さらにマウスES細胞においてもBMPやWntなどのLIF以外のシグナル伝達経路や,Nanogなどの新しい転写因子の重要性が認識されつつある.本稿では,ES細胞の自己複製機構に関する最近の急速な研究の進展を紹介する.
Key words:分化多能性 サイトカイン 増殖因子 転写因子
Signaling maintaining pluripotency in ES cells
生殖幹細胞とニッチ
甲斐歳恵
多くの組織幹細胞はニッチとよばれる特別な微小環境に存在していることが,ここ数十年にわたって報告されてきた.しかし,その実体が明らかになってきたのはごく最近のことである.ショウジョウバエの生殖幹細胞は,生体内での同定が容易であるという利点によって,そのニッチの実体,ニッチからのシグナル,また細胞間相互作用の分子機構について解明が進んできている.本稿では,この系を中心に,ニッチによる生殖幹細胞の維持機構,また生殖細胞の可塑性について最近の知見を概説する.
Key words:生殖幹細胞 ニッチ 脱分化
Germline stem cells and their niches
神経幹細胞の系譜制御機構
中島欽一
神経幹細胞はニューロンおよびグリア細胞への多分化能と自己複製能をもつことを特徴とする.しかし,その存在が長らく再生しないと考えられていた成体脳において報告されたこともあり,神経幹細胞の系譜制御機構は再生医療への応用という観点からも非常に注目を集めている.近年の精力的な研究によって,神経幹細胞の未分化状態維持や分化制御にかかわるシグナル分子および細胞内在性プログラムが少しずつ明らかにされ,それらが単独ではなく協調しあいながら神経幹細胞の運命を決定していることがわかってきた.
Key words:神経幹細胞 系譜制御 シグナル伝達 エピジェネティクス
Mechanism of neural stem cell fate specification
毛包を構成する幹細胞システムとその分子制御機構
大沢匡毅・西村栄美
毛包中には上皮幹細胞と色素幹細胞が存在し,それぞれの存在部位が特定されている.また,毛包は明瞭な構造体であり,細胞の分化系譜を組織学的に同定することが比較的容易にできる.これらの特性を利用して,近年,毛包の幹細胞の増殖分化制御機構に関する研究が目覚ましい勢いで進んでいる.本稿では,これらの幹細胞研究成果について紹介し,その増殖・分化を制御するシグナル制御機構に焦点を絞って考察したい.
Key words:上皮幹細胞 色素幹細胞 毛包 増殖分化制御
Stem cells in the mammalian hair follicle
造血幹細胞の運命制御機構
依馬秀夫
昨年,造血幹細胞研究領域において特筆すべき2つの発見が報告された.ポリコーム群遺伝子であるBmi-1が,造血幹細胞の能力を規定する基盤分子の1つであることが示され,造血幹細胞制御でもエピジェネティクスの役割が注目されはじめた.もう1つは,造血幹細胞の自己複製にWntシグナルが直接に関与することを示すデータが発表され,自己複製シグナル解明への手がかりが与えられた.造血幹細胞の運命を制御する分子の解明に向けて,今ようやく一歩を踏み出した感がある.
Key words:造血幹細胞 自己複製 分化 ポリコーム群(PcG)遺伝子 Wnt蛋白質
Mechanisms controlling the fate of hematopoietic
stem cells
骨格筋の再生を支える幹細胞システム
橋本有弘
骨格筋組織は強い再生能力を有している.筋再生の担い手と考えられるのが多分化能を有する筋組織幹細胞(筋サテライト細胞)である.最近,骨格筋から筋サテライト細胞以外の幹細胞(様)細胞が複数,分離・同定されるに至り,筋再生研究はこれまでにない展開期を迎えている.解決すべき課題は多く,研究の現状はいまだ混沌としているが,それだけに“教科書的事実”を覆す新たな発見への期待も大きい.組織再生研究の“leading
edge”となりつつある骨格筋幹細胞研究の現状を紹介する.
Key words:組織幹細胞 多分化能 筋再生
Stem cell systems in skeltal muscle
■Review
フィトクロムの細胞内シグナル伝達機構再考
松下智直・長谷あきら
植物はフィトクロムとよばれる光情報受容体を用いて,常に周囲の光環境を積極的にモニターし,自らの発生・分化の過程を巧みに調節している.フィトクロムは1959年の発見以来,精力的に研究されてきたが,最近になって,その分子内構造と機能に対するこれまでの考え方が180度覆された.本稿では,フィトクロムがどのような分子メカニズムによって,受容した光情報を下流の因子に伝達するのかについて,従来とはまったく異なる視点から見つめ直す.
Key words:フィトクロム 細胞内局在 核移行 シグナル伝達 光形態形成
Reconsideration of phytochrome signal transduction
■Short Review
代謝・生合成系進化を解明する鍵となる新しいリジン生合成系
西山 真
高度好熱菌において最近見いだされたリジン生合成経路は,ロイシン生合成経路,TCA回路,アルギニン生合成経路などの複数の代謝・生合成系と類似しており,これらは進化的に共通の起源を有すると考えられた.広い基質特異性をもつことは,進化が進んでいない原始的酵素の特徴のひとつと考えられるが,リジン合成酵素は,他の代謝系中間体も基質として反応した.これらの酵素を研究することで,基質特異性を高めていった酵素の進化を実験的に検証することが可能かもしれない.
Key words:進化 α-アミノアジピン酸経路 高度好熱菌
Novel lysine biosynthesis:A key to elucidate evolution of metabolic
and biosynthetic pathways
■解説
SARS,新型インフルエンザ,トリインフルエンザ
missing linkを探して
板村繁之
最近のアジアにおけるトリインフルエンザや米国でのBSE(狂牛病)に関する報道は,多くの人の食への安全性に対する関心を喚起することになりました.とくにトリインフルエンザには,背後に新型インフルエンザ出現の可能性という人類に対して大きな脅威となる潜在的危険性をはらんでいます.本稿では,トリインフルエンザと新型インフルエンザの関係を,昨年大きな問題となったSARS(重症急性呼吸器症候群)とともに,その病原体であるそれぞれのウイルスの起源・出現機序を中心に紹介します.
Key words:SARS(重症急性呼吸器症候群) トリインフルエンザ 新型インフルエンザ 人獣共通感染症
SARS, pandemic influenza, avian influenza:Quest for missing link
■シリーズ バイオインフォマティクスの広がり
(5)医療から見たバイオインフォマティクス
水島 洋
ヒトゲノムの解析が終わった現在,バイオインフォマティクスを最も必要としているのが医療である.医療機関における情報処理の必要性から,医療とバイオインフォマティクスの関連性を解説する.
Bioinformatics in Medicine
■シリーズ 生命科学者のための特許講座
(5)研究に役立つ特許調査
小林基子
研究スタート前の特許調査が研究の成功を左右する.特許調査の対象となる特許情報とは何か,特許情報にアクセスするにはどうすればよいのか,どのような検索キーを使えばよいのかなど,研究に役立つ特許調査のポイントを具体的に説明.
Patent search essential for researchers
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