■Reviwe
体細胞分裂周期では減数分裂特異的mRNAが選択的に除去されている
張ヶ谷有里子・山下 朗・田仲加代子・山本正幸
真核生物の細胞は,体細胞分裂(有糸分裂)により増殖することに加え,減数分裂を行なって配偶子を形成するポテンシャルをもっている.しかし,体細胞分裂で増殖する細胞では,あやまって減数分裂が誘導されるようなことは起こらない.この厳密な制御について,“減数分裂遺伝子のmRNAには特異的な配列が存在し,体細胞分裂で増殖している細胞からは,それらのmRNAは選択的に除去されている”,という精巧な機構がはたらいていることが,分裂酵母における解析から明らかになった.
Key words:減数分裂 遺伝子発現 mRNA 分裂酵母
Selective elimination of meiosis-specific mRNA operates during the mitotic
cell cycle
中枢神経回路の再生と可塑性
山下俊英・羽田克彦・山口 淳・久保武一
損傷を受けた中枢神経機能は回復しにくい.その理由として,損傷した神経軸索は自然には再生できないことがあげられる.脊髄の完全損傷の場合,離断された軸索が損傷部をこえて伸展しなければ機能的な再生は得られないが,成体ではこのような長い軸索の再生は起こりえない.ここ数年,中枢神経に存在する軸索の再生抑制機構について研究が進み,治療的な展望が開けてきた.また,脊髄の不完全損傷ではある程度の機能回復がみられる場合があり,このプロセスに神経回路の再構築が関与していることがわかってきた.この成体における神経回路の可塑性ともいうべき現象は,今後の治療開発に重要な意味をもつと考えられる.
Key words:再生 可塑性 中枢神経 ミエリン 軸索
Regeneration and plasticity of the injured central nervous system
植物の維管束形成・茎頂分裂組織の構築に関与するペプチドホルモン
澤 進一郎・福田裕穂
多細胞生物においては,ヒトを含めた高等動物だけではなく,植物でも細胞間で情報のやりとりが行なわれ,個体としての統一性が保たれている.それでは,細胞はどのようにして自身の位置や環境,発生プログラムを認識して分化し,複雑な“個体”を形づくっているのであろうか.この問いに対し,最近,12アミノ酸残基からなるペプチドホルモンが,植物の形態形成における細胞間情報伝達物質として維管束形成や茎頂分裂組織の構築に機能していることが明らかとなってきた.本稿では,その最新の研究成果とこれからの植物ペプチドホルモン研究の展望について紹介する.
Key words:ペプチドホルモン TDIF CLV3 細胞間情報伝達 CLE
CLE peptides regulate plant morphogenesis as intercellular signaling
molecules
■Short Review
ChIP-on-chip法によりみえてきたSmc5/6複合体による染色体維持機構
須谷尚史・白髭克彦
遺伝情報の安定な継承には,染色体の正確な分配と損傷の確実な修復が不可欠である.SMC蛋白質複合体は,この2つの過程の両方に重要なはたらきをもっている.筆者らは,今回,真核細胞のもつ第3のSMC複合体,Smc5/6複合体の染色体上での結合位置を出芽酵母の全ゲノム上で同定した.その結果,Smc5/6複合体は複製された染色体上でのみ機能すること,その多様な結合位置はそれぞれ異なる制御を受ける少なくとも3つのグループに分類できること,が見いだされた.ほかの研究室による最近の報告もあわせ,Smc5/6複合体の機能について考察したい.
Key words:Smc5/6複合体 SMC蛋白質 染色体分配 ChIP-on-chip法
Functions of Smc5/6 complex revealed by ChIP-on-chip analysis
免疫記憶を担うリンパ球とその機能を操る分子メカニズム
高橋宜聖
免疫系は,侵入した病原体の情報を記憶して,再感染した病原体を効率よく排除する.この免疫記憶を担う記憶B細胞は,ほかのB細胞と比較して長寿性でありながら迅速な分化能をもつ独特な細胞である.近年,記憶B細胞の同定技術が開発され,記憶B細胞に発現する遺伝子情報が解明された.その結果,記憶B細胞はその長寿性と迅速な分化能を獲得するため,神経細胞に発現するSMNやRasシグナル伝達経路を独自の方法で使用することが判明した.本稿では,これら記憶B細胞にユニークな分子システムの詳細とその生理的意義を概説する.
Key words:免疫記憶 記憶B細胞 抗体産生
Regulatory molecules for memory B cell response
電子顕微鏡観察が明らかにするダイニン腕の構造と運動機構
大岩和弘・榊原 斉・石川 尚
真核生物の鞭毛・繊毛は,ダイニン腕がひき起こす微小管の滑り運動によって,時間的・空間的に協調された波打ち運動を行なう.このダイニン腕を構成するダイニン分子に関して,その分子形態やヌクレオチド状態に対応した構造変化が明らかになってきた.さらに,電子線トモグラフィーによって,鞭毛軸糸のなかでのダイニン腕の構造を高い空間分解能で観察することも可能になった.ダイニン分子の構造変化とダイニン腕の構造の詳細は,ダイニン腕による微小管滑り運動のメカニズムやその協同性に関する新しい視点を与えてくれる.
Key words:ダイニン 繊毛 鞭毛 クライオ電子線トモグラフィー 単粒子解析
Structure and force-generation mechanism of dynein arms revealed by
electron microscopy
電子線結晶構造解析によるミクロソームグルタチオン転移酵素の立体構造
刑部伸彦・光岡 薫
グルタチオンは,生体内にもっとも多く存在するチオール化合物である.酸化ストレスへの対応や解毒のための生体内変換を行なうのに,グルタチオンを利用するいくつかの蛋白質ファミリーが進化の過程で発達してきた.グルタチオン代謝を行なう膜蛋白質にミクロソーム型のグルタチオン転移酵素があり,これはMAPEGスーパーファミリーに属している.筆者らは,ミクロソームグルタチオン転移酵素1の原子モデルを,極低温電子顕微鏡を用いた電子線結晶構造解析により明らかにした.本稿では,その立体構造から得られた知見について概説する.
Key words:グルタチオン転移酵素 ミクロソーム 膜蛋白質 2次元結晶 電子線結晶構造解析
Structure of a membrane protein in eicosanoid and glutathione metabolism
by electron crystallography
蛋白質の高精度2次構造予測
金城 玲
蛋白質の2次構造とは,αヘリックスやβストランドなど,天然の立体構造における規則的なパターンであり,2次構造予測とは,それらをアミノ酸配列から予測することである.2次構造予測は,構造未知の蛋白質の構造的性質を推論するための基礎となるほか,立体構造予測の際の制約条件としても有用である.2次構造予測の試みは1970年代からはじめられ,現在にいたるまで,ゆるやかではあるが着実な進歩をとげてきた.そして,最近の方法では平均予測精度が80%をこえるまでになっており,今日では,2次構造予測は信頼できる実用的な方法になったといえるだろう.ここでは,2次構造予測の基本的な考え方と最近の発展,さらに,実用に際しての注意点などをまとめる.また,2次構造予測と関係が深く,潜在的に利用価値が高いと思われるそのほかの構造予測についても紹介する.
Key words:2次構造 予測 学習 1次元構造
Protein secondary structure prediction
■幹細胞技術の現状と展望
ES細胞から内胚葉系の内臓細胞をつくる
安永正浩・西川伸一
ES細胞から内胚葉系の内臓細胞を作製するには,生体内での発生プロセスを十分に理解する必要がある.そのため,goosecoid遺伝子とSox17遺伝子をマーキングしたES細胞を作製し,試験管内で内胚葉の分化過程をモニタリングできる方法を開発した.さらに,EカドヘリンとCXCR4という2種類の表面マーカーの解析でも同様のモニタリングが可能であることを示した.このシステムの利用により,従来は困難であった胚性内胚葉と臓側内胚葉の区別が容易になった.そして,生体内と同様に,アクチビンシグナルで分化誘導された胚性内胚葉を分離・精製後,2次分化を行なうことにより,さまざまな内臓細胞の分化経路の誘導が可能になった.
Key words:ES細胞 内臓細胞 胚性内胚葉 臓側内胚葉 表面マーカー
Production of endoderm derived visceral organ cells from ES cells
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