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2007年 2月号
Vol.52 No.2

1月22日発売

定価1,580円
(本体1,505円)


特集 内胚葉分化の分子メカニズム 
編集:菊池 裕

 

特集の編者より

 われわれヒトを含めたすべての動物は,外界より食物を摂取し,消化・吸収することによって栄養素を獲得している.このような生体維持に必要な消化・吸収を担っているのが消化器官であり,領域別に独特な内腔の形態をもつ消化管と,その派生器官 (肝臓・膵臓など) からなる.消化器官の起源は,原腸陥入とともに誘導される内胚葉細胞に由来する.内胚葉細胞が正中へ移動し管構造を形成するとともに,中胚葉などとの相互作用によって複雑な形態変化が誘導され,機能的な細胞・器官へと分化することが知られている.内胚葉細胞から消化器官への分化機構の解明は,器官再生の観点においてきわめて重要である.
 消化器官の研究は,関連疾病 (肝炎・糖尿病・大腸癌など) の患者数が非常に多いことから医学的治療法の研究開発が中心であり,消化器官形成機構の基礎研究は非常に遅れている.しかし,5〜6年前より,再生医学研究の発達による器官形成学への関心の高まりや,内胚葉・消化器官特異的遺伝子や変異体の単離による基礎研究が増加し,研究者の注目を集めるようになってきた.本特集では,内胚葉細胞誘導・消化器官 (肝臓・膵臓) 形成および再生の分子メカニズムに関して,最新の研究成果を中心に総括する.

菊池 裕 (名古屋大学大学院理学研究科)


 
 
■Short Review
 
 
■シリーズ 幹細胞技術の現状と展望  
 
■Fraction Collector  
  • 雑音に惑わされよ!――ヒト細胞蛋白質発現のノイズによる多様性
  • 神経栄養因子のSNPsモデルマウスの誕生――コホート研究の問題点をマウスが解決する可能性
  • 霊長類から人類へ,急速に進化した小さなRNA
  • 血液凝固抑制因子が出血リスクを軽減する
  • 環状ペプチドはホヤの抗体?
  • 光合成の起源――それはシアノバクテリアからはじまった?
  • 樹状細胞のMHCIIの再配置はユビキチン化で制御される
  • 安定化したBH3ドメインはBaxに直接に結合して活性化する
 
■ロックビルのヨーロッパの日本人バイオ研究者  
  • シメレ恭子(スイス)
 
■実験キット解体新書  
  • 染めた! 見た! 勝った! ウェスタンブロッティング必勝法
     ProtoBlot II AP System with Stabilized Substrate
     DAB Substrate Kit
     ECL Western Blotting Detection System
 
■Book Review  
  • 分子進化と分子系統学
  • 癌の血管新生の分子生物学
 
■Cuvette  
  • 研究者の任期制
 

 



内胚葉分化の分子メカニズム

脊椎動物における内胚葉形成の分子機構
溝口貴正・菊池 裕

脊椎動物の体を構成する細胞は内胚葉・中胚葉・外胚葉の三胚葉に大別することができ,このうち内胚葉からは,生存に必須である消化器官が形成される.その重要性にもかかわらず,内胚葉の形成機構は解析が遅れていたが,最近10年ぐらいで急速に進みつつある.ゼブラフィッシュ変異体を用いた遺伝学的な解析,ノックアウトマウスの解析,アフリカツメガエルにおける内胚葉特異的なマーカー遺伝子のクローニングにより,内胚葉形成には脊椎動物で共通した分子機構が機能していることが明らかになってきた.

Key words:突然変異体 Nodal 母性因子 内胚葉と中胚葉の分離 内胚葉細胞の移動
Molecular mechanisms of endoderm formation in vertebrates

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消化管の進化的起源
刺胞動物ヒドラにおける基本構造と機能
清水 裕・岡部正隆

哺乳類の消化管と同様な構造・機能をもつ消化管が,多細胞体制進化のどの段階で出現したのか,そして,消化管形成の分子機構が進化的に保存されているのかどうかは,興味深い問題である.刺胞動物ヒドラは,神経系をもつ多細胞動物のなかでもっとも原始的な動物と目される.筆者らは,ヒドラ消化管が構造・運動機能の両面でヒト消化管と多くの類似点をもつことを示し,消化運動の基本が多細胞体制進化のごく初期に確立した可能性を提示する一方で,ぜん動機能に散在神経系がはたす役割を考察する.最後に,ぜん動が進化的に消化以外の目的からはじまった可能性に言及する.

Key words:消化管 ぜん動 腸管神経系
Evolutionary origin of digestive tract: basic structure and function in cnidarian hydra

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ショウジョウバエの消化管形成と機能分化
中越英樹・松野健治

ショウジョウバエの内胚葉は,脊椎動物と同様に,Forkhead型転写因子とGATA因子によって誘導され中腸の細胞を構成する.また,分泌性因子などのシグナルに応答して形態的・機能的に異なった細胞が分化してくる機構もくわしく解析されている.ショウジョウバエ消化管は,細胞の移動,収斂伸長,左右非対称性の形成など,動物界で普遍性の高い現象を遺伝学的に解析するモデルとしても非常に有効である.また,必須元素のひとつである銅の吸収,腸管内腔への酸分泌機能を可視化して解析できるため,細胞機能分化を解析するシステムとしても注目される.

Key words:ショウジョウバエ 内胚葉 消化管 左右非対称性 機能分化
Drosophila gut development: cell fate determination and functional specification

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胃・腸形成における上皮間充織相互作用
福田公子・木村 航・八杉貞雄

生命維持に必要な消化・吸収をつかさどっているのが消化管であり,前後軸にそってさまざまな器官に分化している.この分化においては,まず内胚葉が,おそらく隣接する中胚葉からの誘導作用を受け,胃になる領域,腸になる領域などにおおまかに領域化される.そして,領域化された内胚葉は,器官形成期に間充織からの特異的なシグナルを受け取り上皮間充織相互作用をくり返して,最終的に機能的な器官ができあがるものと考えられる.このときには,間充織因子や上皮因子として,さまざまな分泌因子,転写因子がはたらいている.

Key words:消化管 胃 小腸 内胚葉 上皮間充織相互作用
Epithelial-mesenchymal interaction during the development of stomach and intestine

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肝臓発生を制御する転写制御因子群
横内裕二

再生医療研究が進むにつれて,正常発生における肝発生メカニズムの解明がますます必要となってきている.1980年代,肝細胞分化の理解をめざして,肝特異的代謝酵素および血清蛋白質をコードする遺伝子群の転写制御因子群同定がさかんに行なわれた.そのような因子群はHNF(hepatocyte nuclear factor)と呼称され,これまで,HNF1α, HNF1β(vHNF1),HNF3α,HNF3β,HNF3γ,HNF4α,HNF6が同定された.これらにくわえて,C/EBPファミリー,GATAファミリーもまた同様に同定された.アルブミンなど血清蛋白質をコードする遺伝子群は,肝発生初期からすでに肝臓特異的に発現することから,これらの転写制御因子群の肝発生における関連が長らく予測されてきた.解析技術の限界によりその機能解析は不十分であったが,この数年における技術的進歩により,これまで不可能であったその機能証明が可能になった.一方,肝発生とは無関係な研究から,肝発生にきわめて重要な遺伝子群,Hlx遺伝子,Hex遺伝子,Prox1遺伝子が同定された.本稿では,肝臓発生において重要な発生段階(肝決定,初期分化,領域化,移動,増殖,肝内胆管形成)に関与するおもな転写調節因子群の機能について,おのおのの発生段階ごとに概説する.また,その標的遺伝子群同定についての研究も紹介する.

Key words:肝臓 転写制御因子 決定 形態形成 増殖
Transcription factors regulate various processes of the liver development

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消化器官における幹細胞研究の動向
粂 昭苑・谷口英樹

近年,幹細胞を使った再生医学研究がさかんにうたわれている.消化器官を対象とした再生医学の実現には,胚性幹細胞から消化器官幹細胞の誘導,そして,体性幹細胞の増幅がキーポイントとなるが,そこでは,消化器官の発生・分化メカニズムを利用した再生が理にかなっているものと思われる.消化器官の発生・分化については,依然として不明な点が多いものの,最近では,関連遺伝子がつぎつぎと同定されるなど,研究は急ピッチで進んでいる.本稿では,膵臓を中心に,その発生・分化研究,幹細胞研究の最近の進展について紹介する.さらに,発生・分化の試験管内再現系としての幹細胞の魅力についても言及する.

Key words:幹細胞 自己複製 分化 膵臓  誘導シグナル
Prospects in stem cell biology in pancreas

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■Short Review

減数分裂期のテロメアブーケ
平岡 泰

減数分裂期の一時期に染色体末端のテロメアが細胞核膜上でクラスターを形成することは,多くの生物種で知られている.これは,染色体がテロメアで束ねられて花束(ブーケ)のような形になることから,ブーケ構造ともよばれる.最近,筆者らは,分裂酵母でテロメアクラスター(テロメアブーケ)の形成に必須の蛋白質を同定した.これによって,核膜にそってテロメアを束ねる仕組みが明らかになった.それは,細胞骨格の駆動力を用いて核膜を隔てて染色体を移動させるための,普遍的な仕組みを想起させるものであった.

Key words 分裂酵母 減数分裂 テロメア SUNドメイン
A telomere bouquet of meiotic chromosomes

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出芽酵母ゴルジ体における槽成熟過程のイメージング解析
竹内雅宜・時田公美・中野明彦

ゴルジ体は,真核細胞内の分泌経路において仕分け装置としてはたらく,扁平な袋(槽)が集合した構造をもつオルガネラであり,蛋白質のさまざまな修飾やプロセシングをつかさどる.しかし,ゴルジ体の特徴ともいえるこの複雑な槽構造のなかで,蛋白質がどのように輸送されるかに関しては,長いあいだ論争が続いてきた.この問題を解決するため,出芽酵母細胞に蛍光蛋白質を発現させて,高速3次元共焦点顕微鏡による生細胞観察を行なった.その結果,出芽酵母のゴルジ槽の性質が,前期槽のものから後期槽のものへと,時間とともに非常にダイナミックに変化していることが明らかになった.

Key words:ゴルジ体  ゴルジ槽 槽成熟 小胞輸送
Imaging analysis of yeast Golgi cisternal maturation

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■幹細胞技術の現状と展望

胚葉をこえた多分化能と自己細胞移植治療への可能性
出澤真理

骨髄間質細胞は分化転換能をもつ細胞である.この細胞にサイトカイン処理やNotch導入を順序だてて行なうことにより,非常に高い効率で神経細胞やシュワン細胞,骨格筋細胞を選択的に誘導することができる.また,これらの細胞を神経変性疾患モデル・筋変性疾患モデルへ移植することにより,その有効性が確認された.この系を用いた,自らの細胞による再生医療,すなわち,“自己細胞移植治療”の可能性を考察する.

Key words:間葉系幹細胞 分化転換 パーキンソン病 筋ジストロフィー 細胞移植
Insights into auto-transplantation : the unexpected discovery of transdifferentiation systems in bone marrow stromal cells

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