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2009年 10月号
Vol.54 No.13

9月23日発売

定価1,580円
(本体1,505円)


特集 膜蛋白質のシェディングとその制御機構を探る 
編集:瀬原淳子

 

特集の編者より

 蛋白質はプロテアーゼによって分解される.それは,蛋白質に質的な変化をもたらすだけでなく,不可逆な反応であるという大きな特色をもつ.次号特集では,そのなかの膜蛋白質のプロテオリシスと制御,とくに,膜近傍および膜内における限定的な切断に焦点をしぼり,さまざまな視点・アプローチの研究を紹介する.現在,膜蛋白質の限定的分解にはさまざまなプロテアーゼの関与が報告されているが,この特集では,あえて,ADAMプロテアーゼやγセクレターゼとその制御に的をしぼり,それらの生理的役割から制御機構・分子構造まで,多面的な研究の現状を報告する企画とした.この研究分野は,発生や再生,疾病における重要性がつぎつぎに明らかにされつつある反面,蛋白質分解の意義,切断・制御機構,プロテアーゼの種類や特異性など,まだ不明なところが多い.膜蛋白質および蛋白質分解という研究対象の二重のむずかしさや,熾烈な競争や業績至上主義の弊害のなかで,研究の到達点・課題の正しい把握が求められる.この特集はこのような認識のもと,この分野で優れた研究を行なう若手研究者に執筆をお願いした.読者のみなさんに膜蛋白質のプロテオリシスに興味をもっていただき,その奥に潜む生命機能調節のダイナミズムと精巧さを感じていただきたい,という思いが届くことを願うばかりである.

瀬原淳子(京都大学再生医科学研究所)


 
 
■Short Review  
 
■Fraction Collector  
  • ここまできたぞ,長寿の薬
  • いつまでも同じとはかぎらない――筋再生における転写因子Pax7の機能
  • 生体での現象に無駄はない――アミロイド線維の生理的な機能
  • がん細胞の運動と浸潤におけるEphパラドックスの解明
  • シアル酸転移酵素の発現が血液脳関門の通過を可能にする――乳がんの脳転移にかかわる遺伝子
  • 有尾両生類の肢再生における芽体はヘテロな細胞集団からなっている
  • 赤血球に寒イボをつくるマシーン――マラリア原虫でみつかった新型の分泌装置
  • 光応答性“ケージド”電子供与体として機能するGFP
  • T細胞によるインフラマソームの調節
 
■シリーズ サロン・ド・バイオイメージング ≪最終回≫  
  • ライブからライブCLEMへ――蛍光顕微鏡法と電子顕微鏡法との融合 原口徳子
 
■シリーズ 正しい知識が捏造を防ぐ:データを正確に解釈するための6つのポイント ≪最終回≫  
  • 分子生物学,生化学,細胞生物学における統計のポイント――医療統計学の専門家を交えた鼎談 山中伸弥・青井貴之・佐藤俊哉
 
■シリーズ ライフサイエンス系企業が博士卒人材に期待すること ≪最終回≫  
  • ようこそバイオベンチャーへ 森下竜一
 
■Book Review  
  • 動物の生き残り術――行動とそのしくみ
 
■Cuvette  
  • 学振をとおして研究をかえりみる:後編
 

 



膜蛋白質のシェディングとその制御機構を探る

HB-EGFにおけるシェディングの役割とその制御
岩本 亮

HB-EGFはEGFファミリーに属する増殖因子である.この蛋白質は,はじめ膜蛋白質として合成されるが,細胞表面において酵素的な切断をうけることで分泌型蛋白質として細胞外へ放出される.この過程はシェディングとよばれている.最近の種々のHB-EGFの遺伝子改変マウスの作製とそれらの解析から,マウス体内においてHB-EGFが正常にその機能を発揮するには,シェディングが非常に重要なステップであることが明らかになってきた.

Key words:シェディング 増殖因子 HB-EGF ADAMファミリー 遺伝子改変マウス
Physiological significance and regulation of ectodomain shedding of HB-EGF

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シェディングの中心的な酵素TACEの多彩な機能
堀内圭輔

シェディングとは,膜蛋白質を細胞膜上で切断しその細胞外領域を放出する機構である.TACEは膜型蛋白質として産生されるTNFαの可溶化酵素として同定されたが,そののち,さまざまな膜蛋白質のシェディングにかかわっていることが明らかになり,今日では,生体でのシェディングにおいて中心的な酵素のひとつであると考えられている.ここでは,TACEとシェディングの歴史的な背景を概略し,生体におけるその多彩な機能を紹介する.

Key words:TACE ADAM17 TNFα 膜蛋白質 シェディング
Emerging roles of TACE as a central component of ectodomain shedding in vivo

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神経系の細胞間シグナル伝達におけるメルトリンβの多面的な役割
若月修二・湯本法弘・瀬原淳子

ADAMファミリー蛋白質に属する膜型メタロプロテアーゼの多くは,TACEやADAM10とは構造的にやや異なるサブファミリーに属するが,これらプロテアーゼの役割や機能についての解明はあまり進んでいない.筆者らは,これらのメンバーのひとつ,メルトリンβに焦点をあて,このプロテアーゼの役割および生理的な基質の同定を含む機能の解明にむけた研究を行なってきた.本稿では,そのなかで,メルトリンβが発生や再生の過程において末梢神経系に強く発現しその形成に寄与していることを明らかにした最近の研究を紹介し,神経組織の構築においてメルトリンβが担う細胞間シグナル伝達の調節機構について考察する.

Key words:メタロプロテアーゼ 神経筋接合部 ミエリン形成 シュワン細胞 ニューレグリン
Multiple roles of Meltrinβ/ADAM19 on the regulation of signal transduction between neuronal cells

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DSLリガンドのシェディングによるNotchシグナルの制御と整流
高橋智聡・村口輝行・竹上雄治郎・三木貴雄

ADAMファミリー蛋白質によるシェディングをはじめ,DSLリガンドへのさまざまな翻訳後修飾がNotchシグナルの活性と方向性の制御に重要な役割をはたしている.一方,RECKはDSLリガンドのひとつであるJaggedに相同性のある構造をもつ膜アンカー型蛋白質である.この蛋白質がADAM10の活性に依存したDSLリガンドのシェディングを制御し,Notchシグナルの安定化と整流に寄与している可能性が示された.そして,RECKノックアウトマウスの表現型は,Notchシグナルを不活性化したマウスの表現型に酷似していた.

Key words:シグナル伝達 蛋白質分解 分化 幹細胞
Regulation of Notch signaling and its polarity mediated by ectodomain shedding of DSL ligands

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γセクレターゼによる膜内配列の切断を介したバイオロジーと疾患
富田泰輔

γセクレターゼは,少なくとも4つの膜蛋白質から構成される高分子量蛋白質複合体を分子的な実態とし,疎水性環境に存在する膜貫通領域を加水分解するという特殊なプロテアーゼである.アルツハイマー病の発症に深く関与するアミロイドβ蛋白質を産生することから,このγセクレターゼを標的とした原因療法的なアルツハイマー病の治療および予防法の開発が進められている.また,γセクレターゼは発生・分化,幹細胞の制御にかかわるNotchを含めて,さまざまな膜蛋白質を切断し蛋白質分解依存性のシグナル伝達に関与することが明らかになっている.そのため,γセクレターゼによる切断機構の理解と,その分子基盤にもとづいた特異的な活性制御法の開発が求められている.

Key words:膜内配列切断 γセクレターゼ Notch アミロイド
Biology and pathobiology of the intramembrane proteolysis by γ-secretase

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ADAMファミリー蛋白質の立体構造と作用機構
武田壮一

ADAMファミリー蛋白質は,メタロプロテアーゼドメインと蛇毒ディスインテグリン様のDドメインをもち,蛋白質分解と細胞-細胞間の結合という異なる2つの機能をもつ蛋白質として注目されてきた.しかし,X線結晶解析の結果から,ADAMファミリー蛋白質のDドメインは,当初の想定と異なり,インテグリンとの相互作用には適した構造をもたないことが判明した.一方で,Dドメインの下流のシステイン残基に富む領域は,新規のフォールドをもつ蛋白質間相互作用モチーフであることが判明した.ここでは,ADAMファミリー蛋白質について,最近の構造生物学的な知見を紹介する.

Key words:メタロプロテアーゼ ディスインテグリン 蛋白質間相互作用 X線結晶構造解析
Three-dimensional domain architecture of the ADAM family proteinases

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Short Review

ギャップ結合チャネルの構造とそのはたらき
前田将司

ヒトをはじめとする高等多細胞生物において,となりあう細胞のあいだでイオンや低分子化合物はギャップ結合チャネルとよばれる細胞間連絡チャネルを介して透過される.筆者らは,ヒトに由来するギャップ結合チャネルを結晶化し,3.5Å分解能でその構造を決定した.得られた構造をもとに,物質の透過性や選択性に関与すると思われる表面構造,細胞外領域でのコネクソンの結合様式,細胞間での膜電位差によるゲーティング機構について,重要な知見が得られた.

Key words:ギャップ結合 イオンチャネル 細胞間物質透過 細胞間膜電位依存性ゲーティング
Structure and function of human gap junction channel

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シロイヌナズナの表皮の分化と機能
田中博和・町田泰則

高等植物は発生過程において,頂端部から基部へおよび内側から外側へとむかう体軸にそって種々の組織を分化する.表皮組織は植物の個体をおおう組織であり,水分蒸散の制御やガス交換,外敵に対する防御などのため特殊化した機能を担っている.近年,シロイヌナズナにおいて,表皮細胞の分化や表皮の機能に必須であるクチクラの形成にかかわる遺伝子がつぎつぎと明らかになってきている.本稿では,これらについて概説し,さらに,器官発生における表皮細胞の役割を考察する.

Key words:表皮 胚乳 クチクラ 細胞分化 オーキシン
Epidermal differentiation and functions in Arabidopsis thaliana

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