■Review
脳構造・生理・行動制御の統合的解析モデルとしてのショウジョウバエ
上川内あづさ・稲垣秀彦・萬 涼子・伊藤 啓
さまざまな神経制御ツールが整備されたショウジョウバエの脳を利用して,すべての神経細胞を包括的に同定・解析することで,行動を制御する脳という情報処理システムの動作原理を理解しようという試みが加速している.解析が進んでいた視覚や嗅覚にくわえて,近年,聴覚や重力・風感覚の受容機構や神経回路が解明され,それぞれの感覚情報の処理システムが哺乳類の感覚処理システムと高い類似性をもつことが明らかになってきた.ショウジョウバエの脳の理解が,哺乳類を含めた多くの動物の脳における情報処理の理解につながると期待されている.
Key words:脳オミクス ショウジョウバエ 聴覚 重力・風感覚 神経回路構造
Application of Drosophila as an integrative neural model to
understand how sound, gravity, and wind information are processed in
the brain
脂質-蛋白質相互作用の解析
ウシ心筋シトクロム酸化酵素を中心として
吉川信也
ウシ心筋シトクロム酸化酵素から7種のリン脂質と7種のトリアシルグリセロールが検出され,それらの脂肪酸鎖長および不飽和結合の位置と立体配置が決定された.また,X線結晶構造解析により蛋白質への結合様式が決定された.これらの結果は,脂質結合の特異性はグリセロール骨格3位の官能基の構造によって決定されること,3分子のリン脂質が活性中心へのO2供給を制御していること,真核細胞とミトコンドリアとの共生が開始されて以来,バクセン酸が保存されていること,などを示唆している.また,シトクロム酸化酵素以外の膜蛋白質の脂質-蛋白質相互作用との比較も行なった.
Key words:脂質-蛋白質相互作用 膜蛋白質 シトクロムc酸化酵素 X線結晶構造解析 質量分析
Lipid-protein interactions in bovine heart cytochrome c oxidase
and other membrane proteins
■Short Review
自然免疫における遺伝子発現制御
新規リボヌクレアーゼによる炎症応答の調節
竹内 理・松下一史・審良静男
自然免疫にかかわるパターン認識受容体として知られるToll様受容体は,病原体の感染を認識し炎症応答をひき起こす.Zc3h12aはToll様受容体により発現誘導されCCCH型ジンクフィンガー領域をもつ蛋白質で,そのノックアウトマウスは自己免疫症状を呈し,また,Toll様受容体刺激に対するインターロイキン6などの遺伝子の発現が増加していた.Zc3h12aはリボヌクレアーゼ活性をもち,インターロイキン6をコードするmRNAを不安定化させた.以上の結果から,Zc3h12aはmRNAの制御を介して炎症応答の調節にはたらく,重要なリボヌクレアーゼであることが明らかとなった.
Key words:自然免疫 RNA分解 サイトカイン
Control of inflammatory responses by a novel RNase, Zc3h12a
セントロメアでのコヒーシンによる接着を介した動原体方向性の制御機構
作野剛士・渡邊嘉典
染色体を分配するためには,セントロメアに形成される動原体とスピンドル微小管との結合が必須である.体細胞分裂期では,姉妹動原体は互いに反対方向から伸びてきたスピンドルによって捉えられる二方向性結合が確立される一方で,減数第1分裂期では姉妹動原体は同一極からのスピンドルによって捉えられる一方向性結合が形成される.筆者らは,この動原体-スピンドル結合の方向性の違いがセントロメア周辺に集積して存在するコヒーシン複合体を介した接着によって制御されている機構を明らかにした.
Key words:コヒーシン セントロメア 姉妹動原体
Kinetochore geometry defined by cohesion within the centromere
オーグミンによる細胞分裂期紡錘体の形成機構
上原亮太・五島剛太
生細胞観察技術の進歩により,細胞分裂期紡錘体の形成過程において,中心体や染色体からの微小管重合にくわえて,紡錘体内部の既存の微小管に依存した微小管重合の起こることがわかってきた.全ゲノム規模のRNAiスクリーニングにより,この微小管依存的な微小管重合に必須の蛋白質複合体,オーグミンが同定された.オーグミンは,γチューブリン複合体を紡錘体微小管に局在させることで紡錘体の内部の微小管形成にたずさわる.それにより,強固な動原体微小管束が形成・維持され,分裂期中期における紡錘体の双極性が保証される.さらに,細胞分裂の後期には,オーグミンは中央紡錘体の形成を介して細胞質分裂の制御にも関与することがわかった.オーグミンの細胞内機能の解析をつうじて,新しい微小管形成経路の分子機構とその重要性が明らかになりつつある.
Key words:分裂期紡錘体 オーグミン γチューブリン 微小管依存的な微小管形成
Mitotic spindle formation mediated by augmin protein complex
幹細胞システムの起源と進化
船山典子
細胞種特異的に発現する遺伝子マーカーの同定と解析から,カイメンは“全能性幹細胞”のほか,通常は特定の機能を担った分化細胞でありながら特別な状況では生殖細胞や全能性幹細胞へと変化する“襟細胞”という,2つの細胞種による幹細胞システムをもつことを提唱する.襟細胞がもっとも多細胞動物に近い単細胞生物であるタテ襟鞭毛虫と形態的に類似する点に着目して起源的な幹細胞について考察し,また,全能性(多能性)体性幹細胞をもつヒドラやプラナリアの幹細胞システムとの比較から多細胞生物の幹細胞システムの進化の過程について考察する.
Key words:カイメン 全能性幹細胞 生殖幹細胞 ニッチ 襟細胞
The origin and evolution of stem cell system in multicellular animals
アクチンの重合にともなう構造変化
小田俊郎
アクチンは,単量体であるGアクチンとフィラメント状の重合体であるFアクチンの2つの状態をとり,この状態転移により細胞運動などが駆動される.筆者らは,X線繊維回折法を用いてFアクチンの高分解能構造モデルを構築した.アクチン分子は馬蹄形をしていて,2つの大きなドメインがATP結合クレフトをとりかこんでいた.Gアクチンではこの2つドメインが互いに傾いているが,Fアクチンを構成するサブユニットではドメインの傾きがなくなり全体として平板な構造となっていた.この平板化がGアクチンとFアクチンの変換を特徴づける構造変化であり,らせん状のFアクチンを形成するために必須の構造変化であることが明らかになった.
Key words:アクチン 重合 平板構造
Conformational change of actin induced by polymerization
大腸菌全蛋白質の網羅的な凝集の解析
丹羽達也・上田卓也・田口英樹
凝集の形成は蛋白質のもつ宿命である.しかし,どのような蛋白質が凝集しやすいかなど,凝集についての理解は十分ではない.そこで,筆者らは,シャペロンを含まない再構築型の無細胞蛋白質合成系PUREシステムを用いて,約4000個の大腸菌の蛋白質すべてを個別に合成して凝集特性を解析した.定量できた約3000個のデータから,蛋白質は凝集しやすいグループと溶解しやすいグループとに明確に分かれることが示された.また,蛋白質の分子量・等電点・アミノ酸組成・立体構造などが凝集特性と関係することも明らかになった.
Key words:蛋白質の凝集 網羅的解析 無細胞蛋白質合成系 シャペロン
Comprehensive aggregation analysis of whole E. coli proteins
for understanding of protein aggregation
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