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2009年 12月号
Vol.54 No.15

11月24日発売

定価1,580円
(本体1,505円)


特集 生命システムの階層間をまたぐイメージング技術 
編集:野地博行・永井健治
 

特集の編者より

  生命システムを構成する生体分子の種類とその配列がほぼ完全に明らかとなり,生命科学は物質科学としての生体分子科学に立脚しながらも,その集合体をシステムとしてとらえる“超階層システム生命科学”へと急激に変貌しつつある.この新しい展開を実験的にささえているのが,トランスクリプトームやメタボロームなどに代表される網羅的計測技術にくわえて,システムの状態の時空間情報をあたえるイメージング技術である.日進月歩の勢いで発展しているイメージング技術の全貌をかぎられた誌面で俯瞰することはできないため,本特集では,システムとしての生命現象を解明するのに適した新しいイメージング技術の開発やその利用方法に関して,注目すべき成果を上げている若手研究者の研究に的を絞って紹介する.取り上げるのは,分子機械内部の構造変化1分子計測,細胞内蛋白質1分子計測による情報伝達蛋白質の相互作用計測,細胞内ATPレベルのダイナミクス計測,哺乳類細胞内における生物時計の再構成実験,結合振動子としてはたらく細胞の転写状態の大規模計測,超高感度なCa2+計測用蛋白質の開発,機能的多ニューロンCa2+画像法をもちいた神経細胞回路の研究,である.ここから,イメージング技術の今後の発展やその先にある将来像を探りたい.

野地博行 (大阪大学産業科学研究所)
永井健治 (北海道大学電子科学研究所)


 
 
■Short Review  
 
■新実験講座  
 
■Fraction Collector  
  • 脳ニューロンのゲノムモザイク
  • Wntシグナル経路に関する新しい展開――Wntシグナル阻害剤の発見とその抗がん剤としての可能性
  • 老人斑や神経原線維変化があっても大丈夫――神経幹細胞移植あるいはBDNF投与によるアルツハイマー病の新たな治療法
  • アポトーシス細胞の“私を見つけて”シグナル
  • 膜型Fasリガンドがアポトーシスを誘導できる
 
■最終講義  
  • ATP合成酵素と分子シャペロンのなかへ 吉田賢右
 
■シリーズ レクチャー理論生物学――生命現象の解明にむけて  
  • 理論生物学研究の眺め方 石原秀至・杉村 薫
 
■追悼 三浦謹一郎先生を偲んで  
  • キャップ構造発見のころの思い出 古市泰宏
  • 編集幹事 三浦先生との思い出 猪飼 篤
 
 ■Book Review  
  • 医学のための細胞生物学 [訂正]
 
■Cuvette  
  • ポスドク問題の解決:後編――理工系教育の見直し
 

 



生命システムの階層間をまたぐイメージング技術

蛋白質の局所構造変化を1分子レベルで可視化する
政池知子・西坂崇之

生命システムの構成部品として機能をもつ最小単位は,個々の蛋白質や核酸である.筆者らは,この階層のモデルとして,世界最小の回転分子モーター蛋白質F1-ATPaseを対象に研究を進めている.これまで,結晶構造の知見をもとに,ATP加水分解反応にともなう触媒サブユニットの構造変化がF1-ATPaseの中心軸の回転を駆動すると考えられてきたが,その詳細は明らかでなかった.最近,筆者らは,独自の顕微鏡技術で1分子のF1-ATPaseの触媒サブユニットの構造変化と中心軸の回転を同時に可視化し,構造変化が回転を駆動する機構を解明しつつある.

Key words:構造変化 モーター蛋白質 ATP合成酵素 F1-ATPase 蛍光1分子観察 偏光変調全反射型顕微鏡
Visualisation of conformational changes of proteins at the single-molecule level

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走化性応答における確率的シグナル伝達の1分子イメージング解析
宮永之寛・上田昌宏

細胞内の確率的シグナル伝達の一例として,走化性応答におけるGPCR型走化性受容体から3量体G蛋白質へのシグナル伝達反応を取りあげ,細胞内1分子イメージング解析によって明らかになってきたシグナル分子の確率的特性と細胞応答との関係について議論する.GPCR型走化性受容体から3量体G蛋白質へのシグナル伝達にともなって生成されるノイズによって細胞の走化性応答の効率が制限されることや,GPCR型走化性受容体の反応速度論的多状態性がシグナル伝達に利用されて細胞の応答レンジが拡張されることなどが明らかになってきた.

Key words:細胞内1分子イメージング ノイズ 走化性 G蛋白質 細胞性粘菌
Single-molecule imaging analysis of stochastic signal transduction in chemotactic response

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新規蛍光プローブを用いた細胞内ATPイメージング
今村博臣・野地博行

ATPは,細胞のエネルギー通貨として,また,シグナル分子として,生体のなかで重要な役割をはたしている.これまで生きた細胞ひとつひとつのATP濃度を調べる実用的な方法がなかったため,細胞内におけるATPの分布や動態は不明であった.筆者らは,ATP合成酵素のATP結合サブユニットと蛍光蛋白質を利用して,蛍光ATPプローブ“ATeam”を作製した.ATeamを動物細胞に発現させてイメージングすることで,生きた細胞内のATPの分布や動態を調べることが可能になった.

Key words:FRET ライブイメージング 蛍光蛋白質 ATP合成酵素
Imaging of intracellular ATP using novel fluorescent probes

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細胞結合振動子システムを対象にした超高感度大規模イメージング
堀川一樹・永井健治

脳や遺伝子プログラムは細胞や遺伝子などの機能単位から構成される複雑なネットワークである.その動作原理を理解したいという野心的な挑戦のためには,要素レベルの空間解像度を備えた大規模イメージングが必須である.本稿では,細胞結合振動子システムを材料に,構成単位である細胞の動的な活動を超高感度かつ大規模にイメージングする2つの方法を紹介する.

Key words:生物リズム 分節時計 Ca2+イメージング
Ultra-sensitive and large-scale imaging of cellular coupled oscillator systems

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神経ネットワーク活動の可視化
木村梨絵・池谷裕二

脳は,入力された情報を適切に処理して出力する情報演算システムである.多数のニューロンが協調的に作動することによって高度な演算を実現している.従来の多くの研究では,個性あるニューロンからなる回路システムを一様化して扱ったり,あるいは逆に,個々のニューロンをシステムから切り離して扱ったりしていたが,回路システムを理解するうえでは,素子とシステムが相互作用する状態で神経活動をとらえることが重要である.機能的多ニューロンカルシウム画像法(fMCI法)はこれを可能とし,回路内の多数のニューロンが,いつ,どこで,どのように発火したのかを明確にとらえることができる.

Key words:機能的多ニューロンカルシウム画像法 発火活動 脳回路システム 情報演算 海馬
Visualization of neuronal network activity

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哺乳類概日時計の転写ネットワークの物理的シミュレーション
鵜飼-蓼沼磨貴・粕川雄也・上田泰己

生命現象を理解するために,人工的な部品からシステムを組みあげる再構成実験が注目を集めつつある.生命科学における“物理的シミュレーション”ともいうべきこの手法において,細胞システムの挙動を長期間にわたり経時的に観察することは必要不可欠であり,発光による細胞内の状態の検出が重要な役割をはたす.本稿では,発光イメージングを用いた動的システムの解析例として,哺乳類概日時計の転写ネットワークを対象に,構成要素を人工的な部品におきかえることで設計原理を理解する試みを紹介する.

Key words:発光イメージング 概日時計 物理的シミュレーション 再構成
Physical simulation of the transcriptional network of mammalian circadian clocks

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■Short Review

コハク酸脱水素酵素複合体の退化型サブユニットの発見とその集積機構
茂木立志・北 潔

ミトコンドリアから核への遺伝子の移行でミトコンドリアゲノムはスリム化する.一方,酸化的リン酸化を担うミトコンドリアの膜酵素複合体は,非触媒サブユニットが増加して肥満化の一途をたどっている.その唯一の例外が,αプロテオバクテリア由来の4個のサブユニットからなるコハク酸脱水素酵素複合体であった.しかし,最近,植物とトリパノソーマのコハク酸脱水素酵素複合体にも非触媒サブユニットが発見された.本稿では,触媒サブユニットの遺伝子重複と退化型サブユニットの集積による,トリパノソーマを含むユーグレノゾアのミトコンドリアのコハク酸脱水素酵素複合体の分子多様化のしくみを紹介する.

Key words:ユーグレノゾア 呼吸鎖複合体 遺伝子重複 多様化
Discovery and assembly mechanism of degenerated subunits in succinate dehydrogenase complex

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■新実験講座

相関解析法を組み込んだ新しいDNAマイクロアレイデータ解析法CIRES
糖鎖生合成系を例にとって
竹松 弘・小堤保則

細胞の状態はその遺伝子発現状態,つまりトランスクリプトームによって決定される.細胞表面に発現し細胞の顔であるとされる糖鎖をはじめとし,異なる細胞では異なる表現型を発現する.その表現型の多細胞間での差違を定量化し,これを多細胞間でのトランスクリプトームのプロファイルと統計的に相関解析することで,表現型発現の責任遺伝子を特定する方法を発案したのでここに詳述する.この方法は多細胞間での表現型の差違を定量的に扱うことで,糖鎖発現系のみならず,幅広く生命科学分野に応用可能なものであると考える.

Key words:CIRES法 糖鎖結合性プローブ 生合成経路 トランスクリプトーム
Novel transcriptome analysis method incorporating multi-sample profile correlation: its application to glycan biosynthetic pathways

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