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2010年 1月号
Vol.55 No.1

12月22日発売

定価1,580円
(本体1,505円)


■Review
 
 
■Short Review  
 
■Fraction Collector  
  • 要となるセロトニン神経系 : レプチンの作用
  • スペルミジン飲んで長寿
  • 悪者の兄弟もやっぱり悪者――アルツハイマー病におけるアミロイド前駆体蛋白質の細胞内ドメインの役割
  • 血管外遊走を止めろ!――自己免疫性T細胞はいともたやすく血管をすり抜けていた
 
■Laureate  
  • 2009年ノーベル医学生理学賞
    テロメアとテロメア合成酵素によって染色体が保護されるしくみの発見 平岡 泰・原口徳子
  • 2009年ノーベル化学賞
    Ribosome World War 中村義一
 
■シリーズ レクチャー理論生物学――生命現象の解明にむけて  
  • 反応拡散系の生物のパターン形成現象への応用 三浦 岳・長山雅晴
 
■Book Review  
  • グリンネルの科学研究の進め方・あり方
 
■Cuvette  
  • “生化学若い研究者の会”の活動の歴史とこれから
 

 



■Review

スプライソソームを構成するRNA-蛋白質複合体snRNP
生合成機構と脊髄性筋萎縮症
小川ちひろ・臼井健悟・鈴木治和

mRNA前駆体のスプライシングは真核生物の遺伝子発現において必須である.snRNPは,スプライシングで中心的な役割を担うスプライソソームの主要構成因子である.snRNPの生合成機構は複雑であるが,snRNP生合成の低下が原因とされる脊髄性筋萎縮症の発症メカニズムを理解するため,さまざまな研究が行なわれている.筆者らは,細胞質でのSMN複合体によるsnRNPの生合成について研究を行ない,新たな生合成機構のモデルを提唱した.また,snRNP生合成の低下と脊髄性筋萎縮症の重篤度の相関について筆者らの実験データを紹介するとともに,近年,提唱された脊髄性筋萎縮症発症の最新モデルも紹介する.

Key words:snRNP SMN複合体 脊髄性筋萎縮症
Mechanism of spliceosomal snRNP biogenesis and spinal muscular atrophy


Rheb-mTORシグナルの細胞のがん化への関与
佐藤龍洋・中嶋昭雄・玉野井冬彦

mTORは,アミノ酸やインスリンなどの栄養・増殖因子に反応し,細胞の増殖や大きさ,オートファジー,アクチン細胞骨格の形成の制御などを行なう多機能蛋白質である.多くのがん細胞ではmTORシグナルの破綻が見受けられ,mTORシグナルの異常活性化はがん細胞の増殖などを促進していると考えられる.近年,mTORが2つの複合体を形成することがわかり,そのシグナル伝達機構や活性化機構が徐々に明らかになってきた.

Key words:mTOR Rheb ラパマイシン
Rheb-mTOR signaling pathway involved in tumor formation


蛋白質進化のダイナミクス
徳力伸彦

近年,蛋白質の進化と物理化学的性質を結びつける研究が盛んに行なわれてきている.そのなかで得られたもっとも重要な知見は,蛋白質の安定性の低下,および,それにともなう蛋白質の凝集や分解が進化のボトルネックになっており,それらを回避するメカニズムが進化において重要な役割をはたしていることである.これらのことは,新規蛋白質を実験室内で進化またはデザインするための大切な知見をあたえている.本稿では,筆者らの成果をまじえ,変異の安定性に対する影響を主眼に蛋白質進化のダイナミクスを議論し,新しい進化工学の方法論を提案する.

Key words:蛋白質進化 安定性 エピスタシス 進化工学
Dynamics of protein evolution


■Short Review

組織特異的ゲノムワイドRNAiスクリーニングによるNotchシグナル伝達系の解析
山崎正和

ゲノム情報の解読およびRNA干渉(RNAi)の発見は,ゲノムワイドRNAiスクリーニングによる大規模な遺伝子の機能解析を可能にした.これまでは,培養細胞または線虫における全身性の遺伝子ノックダウンによるスクリーニングにかぎられていたが,ショウジョウバエの誘導型RNAiライブラリーの出現により個体を用いた組織特異的なゲノムワイド解析が現実のものとなった.最近,筆者らは,ショウジョウバエ外部感覚器に着目した組織特異的ゲノムワイドRNAiスクリーニングを行ない,Notchシグナル伝達系にかかわる複数の新規遺伝子を同定した.本稿では,Notchシグナル伝達系の相互作用マップの構築を含むスクリーニングの成果について概説する.

Key words:RNAiスクリーニング Notchシグナル伝達経路 組織特異的 相互作用マップ
Tissue-specific genome-wide RNAi screen in Drosophila


動物はいかに目的地に到達するか
線虫の化学走性の2つの機構

飯野雄一・吉田和史

動物は,化学物質や光,温度などの刺激を感じて,それに近寄る,あるいは,それから遠ざかるといった走性行動を示す.この行動の機構を理解することは,感覚情報の受容と情報処理,行動制御など,神経回路の多様な制御機構の解明のための基盤となる.線虫の化学走性行動を自動追尾装置でとらえ数値的に解析する研究により,化学走性には2つの行動機構が併用されていることが明らかになった.コンピュータシミュレーションの結果から,これらの両機構とも化学走性に重要であることが示された.さらに,これらの行動制御にかかわる神経回路も明らかになりつつある.

Key words:線虫 走性行動 行動機構 神経回路 コンピュータシミュレーション
How animals reach their destination?: two strategies of chemotaxis in C. elegans


細胞移動のメカニズム
ショウジョウバエ始原生殖細胞から得られた新知見
佐野浩子

細胞移動は生命活動をささえる重要なプロセスである.とくに,細胞の移動開始における異常はがん細胞の転移につながることから,そのメカニズムの解明が求められている.筆者らは,G蛋白質共役型受容体Tre1が,ショウジョウバエ始原生殖細胞の生殖巣への移動開始に必要であることを明らかにした.Tre1は始原生殖細胞の極性化およびカドヘリン結合を制御する.G蛋白質共役型受容体による細胞の極性化と細胞接着の連携した制御は,細胞移動の開始にはたらく新しいメカニズムであり,その一般性および病態への関与が注目される.

Key words:始原生殖細胞 細胞移動 細胞極性 Tre1 カドヘリン細胞接着因子
New insights into cell migration from Drosophila germ cell migration


正常上皮細胞と癌細胞のインターフェースで何が起こるのか?
藤田恭之・梶田美穂子

癌の初期段階,すなわち,上皮細胞層のひとつの細胞に最初の変異が生じた際に,変異細胞とまわりの正常細胞とのあいだで何が起こるのかについてはいまだ明らかでなく,癌研究のブラックボックスとなっている.筆者らは上皮細胞培養系を用いたモデルシステムを確立し,癌の初期段階で起こる現象を分子レベルで解析した.その結果,隣接する正常上皮細胞が変異細胞のシグナル伝達や動態に大きな影響をあたえていることが明らかとなった.今後,これらの研究をさらに発展させ,新たな癌治療の開発へつなげたいと考えている.

Key words:上皮細胞 Ras 頂端側への離脱 Cdc42 ROCK
Interface between normal and transformed epithelial cells


ユビキチンホメオスタシスの制御機構
木村洋子

ユビキチンによる蛋白質の修飾は,プロテアソームによる分解の目印としてだけでなく,シグナル伝達,細胞周期,DNA修復など,非常に多様な細胞の機能制御に重要な役割をはたしている.一方,ユビキチンの量は細胞の環境や状態に応じて変化しており,適切に制御されている.本稿では,ユビキチンの産生がどのように制御されているかについて,これまでに報告されている知見を紹介するとともに,最近,筆者らが見いだした脱ユビキチン化酵素とそのインヒビターによる制御機構について解説したい.

Key words:ユビキチン 熱ショックストレス 脱ユビキチン化酵素 ホメオスタシス
Mechanism of ubiquitin homeostasis


核内糖修飾を介するエピゲノム制御
藤木亮次・近西俊洋・橋場和華・加藤茂明

ヒストン修飾やその制御因子の発見はヒストンコードという新たな概念を提唱した.これは,“細胞はどのように遺伝子発現の多様性を獲得するのか?”というポストゲノムの中心課題に大きなブレークスルーをもたらした.昨今の飛躍的な技術革新はゲノムワイドなヒストン修飾(エピゲノム)の解読すら可能にし,膨大なデータベースが蓄積している.一方,細胞分化過程にみられるようなダイナミックなエピゲノム変換機構については,いまだその大部分が不明であった.本稿では,このような過程において核内の糖修飾がヒストンのメチル化制御と関連することを紹介する.

Key words:エピゲノム ヒストンコード O-GlcNAc修飾 細胞分化 核内受容体
The role of nuclear O-glycosylation in epigenetic regulation


新しいアルギニンメチル化-リン酸化コード
深水昭吉

蛋白質の機能制御として,リン酸化とその可逆的反応としての脱リン酸化は重要な化学修飾の代表格である.リン酸化-脱リン酸化による蛋白質の活性調節の研究は,生物学の中心課題のひとつである.最近,筆者らは,セリン/スレオニンキナーゼであるPKB/Aktのリン酸化コンセンサス配列中のアルギニン残基が非対称型にジメチル化されると,リン酸化が阻害されることを明らかにした.本稿では,アルギニンメチル化とリン酸化の相互作用が,新しいコードとなる可能性を議論したい.

Key words:アルギニンメチル化 アルギニンメチル化酵素 PKB/Akt 転写制御 シグナル伝達
A new codified regulation of arginine methylation and Akt-induced phosphorylation


NMRを用いて生きた細胞内の蛋白質の立体構造を解析する
伊藤 隆

in-cell NMRには,生きた細胞内の生体高分子の高次構造や分子動態を原子分解能で解析できるほぼ唯一の手法としての潜在的な有用性があり,方法論的な熟成が求められてきた.最近,筆者らのグループは,大腸菌内で発現させたモデル蛋白質の立体構造解析を行ない,in-cell NMRによる細胞内蛋白質の高次構造決定が可能であることを世界ではじめて実証することができた.この研究について概説し,in-cell NMRの現状と今後の展望について議論する.

Key words:in-cell NMR 立体構造決定 細胞内分子動態
Investigating protein tertiary structures inside living cells by in-cell NMR spectroscopy


中性子を用いた創薬標的蛋白質の立体構造解析
安達基泰・黒木良太

中性子を用いた結晶構造解析は,その独特の性質から,蛋白質の水素原子を含むすべての原子の観測が可能である.とくに,蛋白質における分子認識や化学反応のメカニズムの解明において,水素原子を観測する意義はきわめて大きい.筆者らは,このような性質をもつ中性子を利用して創薬標的蛋白質の立体構造解析を行なっている.そのひとつの例として,抗HIV薬の標的分子であるHIVプロテアーゼと遷移状態アナログとして設計された阻害剤との複合体の中性子結晶構造解析の結果を紹介する.新たに観測された触媒残基と阻害剤との相互作用様式は,触媒機構の解明やより阻害活性の高い医薬品候補分子の設計に有用な情報をあたえる.

Key words:中性子 結晶構造解析 HIVプロテアーゼ 創薬標的蛋白質 触媒機構
Structure analysis of drug target proteins by neutron diffraction


トバモウイルスの宿主域制限機構
石橋和大・石川雅之

ウイルスは特定の生物種のみに感染するが,ウイルスの宿主域がどのように決まっているのかはほとんどわかっていない.筆者らは,ある種のトバモウイルスがトマトに感染できないおもな原因は,トマトのもつ蛋白質tm-1がウイルスの複製をつかさどる蛋白質に結合し,機能阻害をひき起こすことにあることを明らかにした.同様の阻害機構は,ウイルスの宿主特異性に幅広くかかわっている可能性がある.

Key words:宿主特異性 ウイルス-宿主相互作用 RNA複製
Mechanisms underlying the host range restriction of tobamoviruses


低温細菌における長鎖高度不飽和脂肪酸の生合成と機能
栗原達夫・川本 純・江崎信芳

長鎖高度不飽和脂肪酸の1種であるエイコサペンタエン酸(EPA)は,リン脂質のアシル鎖として,動物や海洋性低温細菌の膜に存在する.健康食品として脚光をあびているが,生体膜における機能発現機構には不明な点が多い.筆者らは,海洋性低温細菌の低温適応にリン酸質に含まれるEPAが重要な役割をはたすことを見いだし,EPAの欠損によって細胞分裂不全や膜形成異常の生じることを明らかにした.EPA欠損株の膜の流動性測定や合成リン脂質による相補実験の結果にもとづき,EPAが膜の流動性保持以外の生理機能をもつ可能性について論じる.

Key words:長鎖高度不飽和脂肪酸 エイコサペンタエン酸 リン脂質 生体膜 低温細菌
Biosynthesis and function of long-chain polyunsaturated fatty acids in cold-adapted bacteria


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