神経美学
―美と芸術の脳科学―
本書は、その誕生から今日までの約15年余りの成果をわかりやすく紹介する入門書である。神経美学の定義からはじまり、絵画と音楽などの芸術の美や、道徳や数理などの「視えない美」における脳の働きを説明し、芸術や外面的特徴だけではなく、美が様々な対象に現れることを示す。つづいて、文脈や状況によって変化する美的判断の柔軟性、美しさと醜さの違い、悲哀の中にある美、美と快感の関係、芸術的創造性などについて、最新の脳機能研究成果を紹介していく。最後に、これまでの脳機能研究の視点から美的体験の認知的枠組みを示し、美の感覚はどのような機能をもち、われわれにどのような恩恵をもたらすのかを論じる。
1.1 脳科学と美
1.2 主観と客観
1.3 主観性を脳からしらべる
1.4 神経美学の扱う範疇
2 視る美と聴く美
2.1 美の難題
2.2 クライブ・ベルの問い
2.3 視る美
2.4 聴く美
3 視えない美
3.1 不可視の情報
3.2 数理の美
3.3 道徳の美
4 うつろう美の価値
4.1 地下鉄のヴァイオリン弾き
4.2 文脈でうつろう価値―文脈効果と美的価値
4.3 クチコミに流される価値―同調バイアス
5 知識の監獄
5.1 囚われの知覚―ピカソが描いたストラヴィンスキー
5.2 「つけどころ」がちがうエキスパートの目
5.3 目をくらませないエキスパートの脳
5.4 イノセントアイは戻らない
6 変わらない価値はあるか?
6.1 氷河期美術(アイスエイジアート)
6.2 単純なものから考える
6.3 運動の美と第5次視覚野
6.4 赤ちゃんは美を感じるか?
6.5 プリミティブアートと「頭足人」
7 快感と美観
7.1 美は快なのか?
7.2 快感情を分類する
7.3 快感情の脳活動
7.4 ふたつの報酬系
7.5 ふたつの美
8 ネガティブと美
8.1 快くない美
8.2 崇高さと美しさ
8.3 崇高さと社会性
8.4 仮想の恐怖と距離
8.5 悲哀と美
8.6 悲哀美の脳科学
8.7 共感と距離と芸術
9 醜さの力
9.1 醜はなぜ「悪」か?
9.2 芸術での醜
9.3 醜の脳活動
9.4 「第四の壁」をこえる醜
10 創造性の源泉を脳にさがす
10.1 創造性と科学
10.2 創造性を生み出す脳機能―ジャズミュージシャンの脳
10.3 芸術は「抑制」?
10.4 創造性を受けとることができる人
11 認知の枠組みと美
11.1 フランシス・ベーコンと顔,身体,物
11.2 顔・身体と物体の認知
11.3 上書きできないものとフレキシブルなもの
11.4 ふたつの認知的コンセプトとふたつの美
11.5 脳と美
12 美の認知神経科学
12.1 真,善,そして美
12.2 生物的欲求と人間的品性
引用文献
おわりに
神経美学の若きエース(コーディネーター 渡辺 茂)
索引