森のつくられかた
―移りゆく人間と自然のハイブリッド―
人間による「森のつくられかた」をある程度網羅的に論じていくという本書の試みは、少なくとも日本においては非常にユニークなものである。本書を読むことで、未来に向けた森林の見取り図がどうあるべきか、森林と人間の関係をどのように(再)構築していけばよいのか、着想する一助になれば幸いである。
はじめに
1.1 本書のねらい
1.2 自然の社会的構成とその批判
1.2.1 自然と人間の二元論
1.2.2 自然の「本質」と社会的な構成
1.2.3 社会構成主義への批判とハイブリッド
1.3 本書の枠組みと構成
1.3.1 ハイブリッドの生成と変容
1.3.2 本書各章の構成
第2章 森を認識する:森林とは何か?(生方史数)
はじめに
2.1 森林とは何か?
2.1.1 写真はどこで撮られたか
2.1.2 「森」と「森林」のあいだ
2.2 森林の定義にみる2つの基準
2.2.1 日本の森林法における定義
2.2.2 定義のグローバル化と2つの基準
2.3 認識の実体化と矛盾
2.3.1 定義における「ゆらぎ」と「ずれ」
2.3.2 「ゆらぎ」と「ずれ」の実体化
2.3.3 実体化とその矛盾:3つの例
おわりに
第3章 森の彼方を見る:近代化以前の山村を見るまなざし(葉山アツコ)
はじめに
3.1 国家がリードする価値観形成
3.2 近世の奥山紀行に見る山村の暮らし,山村へのまなざし
3.3 明治末期の山地空間へのまなざし
おわりに
コラム1 森とつながる文化(小林 知)
第4章 森を区切り,所有する:ラオスと日本における「領域化」(百村帝彦)
はじめに:境界にあるプレート
4.1 ラオスにおける領域化
4.1.1 ラオス概要
4.1.2 森林関連法令による全国レベルの森林区分の確定とその領域化
4.1.3 土地森林分配事業による村落レベルの土地森林区分の確定と領域化
4.1.4 経済・社会のグローバル化による土地・森林の経済的価値の変容
4.1.5 REDDプラスによる森林の領域化
4.1.6 ラオスにおける森林の領域化と今後
4.2 不完全な領域化:日本における所有者不明土地問題
4.2.1 日本における森林の所有者不明問題
4.2.2 所有者不明土地問題の「課題」:入会林と割地制度
4.2.3 日本における森林所有者「不明」の実態とズレ
おわりに:ラオスと日本における領域化とその課題
第5章 森に科学を導入する:科学的林業・森林管理とその現地化(生方史数)
はじめに
5.1 科学的林業の起源とその普及
5.2 東南アジアにおける熱帯林業の成立と蹉跌
5.2.1 林野の所有制度とコンセッション・システム
5.2.2 天然更新技術
5.2.3 造林技術
5.3 自然・社会・制度・技術のリンク
5.3.1 東南アジアの森林管理におけるリンク
5.3.2 国家と在来社会の関係性
おわりに:森林に科学・技術を導入するための基盤
第6章 森を開発する:マレーシア・サバ州における森林開発とその後の森のゆくえ(内藤大輔,生方史数)
はじめに
6.1 マレーシア・サバ州における森林開発の歴史
6.1.1 サバ州の社会と木材産業
6.1.2 森林開発の担い手と制度
6.2 森林転用の担い手と制度
6.2.1 カントリー・リース
6.2.2 アブラヤシ栽培への転用
6.3 開発後の土地利用と残された森林
6.3.1 森林転用後の農地管理
6.3.2 ポスト木材ブーム期における残された森林の管理
おわりに:開発で変わりゆくもの,変わらないもの
第7章 森に環境価値を付与する:グローバルな環境主義が変える森林のあり方(生方史数,内藤大輔)
はじめに
7.1 まなざしの変化
7.1.1 日本人の森林認識から
7.1.2 拡張された便益認知
7.2 まなざしの変化とその影響
7.2.1 日本の里山
7.2.2 インドネシアの泥炭湿地
7.2.3 まなざしの担い手と実体化
7.3 まなざしの実体化がもたらすもの
おわりに
第8章 森を「資本」にする:経済的アプローチと森林保全(生方史数,百村帝彦)
はじめに
8.1 グローバルな森林環境問題への対処と経済的アプローチ
8.1.1 グローバルな森林環境問題と森林保全制度・手法
8.1.2 経済的アプローチ
8.2 自然の「資本化」とその基盤整備
8.2.1 ベトナムのPFESにおける基盤整備
8.2.2 REDDプラスにおける基盤整備
おわりに
コラム2 森と里山の価値が失われる:原発事故と森林(満田夏花)
第9章 森のよりよい共創に向けて(生方史数)
はじめに
9.1 森がつくられるプロセス
9.1.1 認識と社会化
9.1.2 制度化
9.1.3 働きかけと相互作用
9.2 ハイブリッドの変容と零れ落ちたもの
9.2.1 空間・価値・管理手法の再編成
9.2.2 零れ落ちたもの
9.2.3 相互作用の重要性
9.3 森の「つくりなおし」に向けて
9.3.1 目標の転換
9.3.2 森の共創へ
おわりに:人新世の時代における森林
索 引