魅惑のロジャーズ-ラマヌジャン恒等式
―― G. H. ハーディ
ロジャーズが1894年に発見し、それを再発見したラマヌジャンを驚嘆させたロジャーズ-ラマヌジャン恒等式。それは、ある種の無限級数が無限積に等しいという、2つの恒等式である。一見したところ、そこには絶妙な対称性があるものの、その意味するところは捉えがたい。この恒等式をどのように解釈したらよいのだろうか? この恒等式は孤立したものなのだろうか? このような恒等式が自然に生じるような数学的、あるいは物理学的な文脈があるのだろうか? そもそもどうやって証明すればよいのか?
本書では、ロジャーズ-ラマヌジャン恒等式に関するこのような疑問について、整数の分割の理論、超幾何級数の理論あるいは組合せ論の観点から、豊富な具体例を用いつつ丁寧に解説される。さらに、頂点作用素代数、リー代数の表現論、統計力学、結び目理論との自然な結び付きについても言及される。
本書の主要部分は、高度な数学的知識を要さずとも読むことができる。一方で、その意味合いが完全には明らかとなっていないロジャーズ-ラマヌジャン恒等式の研究を、さらに進展させる糸口となる書籍である。
[原著:An Invitation to the Rogers-Ramanujan Identities、 CRC Press(Taylor and Francis Group)、 2017]
序文
謝辞
1 背景と前史
1.1 分割の初等的理論
1.2 デデキントのエータ関数とモジュラー形式
1.3 超幾何級数
1.4 超幾何和のWilf-Zeilberger理論
1.5 q-類似
1.6 q-超幾何級数
1.7 q-二項定理とヤコビの三重積恒等式
1.8 q-三項係数
1.9 q-超幾何変換公式
1.10 2変数および3変数の古典的q-級数
1.11 2変数の母関数
2 黄金時代とその現代的意義
2.1 ハーディの報告
2.2 ロジャーズ-ラマヌジャン恒等式の二つの証明
2.3 ロジャーズ-ラマヌジャン-ベイリー機構
2.4 組合せ論的考察
2.5 ロジャーズ-ラマヌジャン型恒等式の近親縁者
2.6 数え上げ
3 無限族…至る所に!
3.1 ベイリー鎖
3.2 ロジャーズ-ラマヌジャン型恒等式の組合せ論的一般化
4 無限から有限へ
4.1 アンドリュースのq-差分方程式の方法
4.2 相反的双対
4.3 ブレスウド多項式
4.4 8を法とした有限ラマヌジャン-スレイター恒等式
4.5 Borwein予想
4.6 演習問題
5 動機付けられた証明,Lie代数との関わりとさらなる恒等式
5.1 “動機付けられた”証明
5.2 Lie代数および頂点作用素代数との関わり
6 だが待て…まだまだあるぞ!
6.1 分割の一対一対応
6.2 ロジャーズ-ラマヌジャンの連分数
6.3 統計力学
6.4 Loxtonによる二重対数関数の特殊値
6.5 Hall-Littlewood多項式
6.6 “m-版”
6.7 結び目理論
6.8 さらに何があるか誰が知ろう
付録 A
A.1 200近いロジャーズ-ラマヌジャン型の恒等式
A.2 偽テータ級数の恒等式
付録 B
B.1 W.N.ベイリーからF.J.ダイソンへの手紙
B.2 F.H.ジャクソンからダイソンへの手紙, 1944年6月4日
B.3 L.J.ロジャーズからF.H.ジャクソンへの手紙
B.4 W.N.ベイリーからL.J.スレイターへの手紙
付録 C
参考文献
訳者あとがき
索引