空力音響学
―渦音の理論―
境界のない無限に広がる自由空間での空力音の生成が非定常な渦の運動に起因するのに対し、本書では特に、実用問題でより重要となる、渦の近くに物体がある場合に力点をおき、それらの干渉により生成される音の性質が、音波の波長が音源(物体あるいは渦)の代表長さより十分大きいという低マッハ数流れで一般的に実現されるコンパクト条件のもと、グリーン関数(コンパクトグリーン関数)を用いて調べられている。いくつかの代表的かつ重要な具体的物体形状に対しては、例題や演習問題を通じて繰り返していねいに説明がなされている。
本書で論ぜられている音響学的アナロジーに基づく理論解析の対象は、音源に対する圧縮性の影響が実際上無視しても差し支えない程度の低マッハ数流れに限られるものの、その解析から導かれる結論はまぎれもなく、空力音の生成機構に対して本質的な説明を与えている。これは、この理論が様々な環境や産業応用において重要となる騒音問題に広く応用でき、また、空力音に関する風洞実験や直接数値シミュレーションの結果の解釈にも大いに役立つ。したがって、この種の問題に取り組む研究者や技術者にとって極めて有用な書と言えるであろう。
(Theory of Vortex Sound by M. S. Howe、 Cambridge University Press、 2003)
1.1 渦音とは?
1.2 流体の運動方程式
1.3 線形音響方程式
1.4 非圧縮性流体での特別な場合
1.5 瞬間点音源により生成される音
1.6 自由空間グリーン関数
1.7 単極子,双極子,四重極子
1.8 音響エネルギー流束
1.9 音響遠方場の計算
問 題1
第2章 ライトヒルの理論
2.1 音響学的アナロジー
2.2 ライトヒルの速度8乗則
2.3 カールの理論
2.4 コンパクトな剛体物体の近くの乱流により生成される音
2.5 コンパクトでない表面からの放射
問 題2
第3章 コンパクトグリーン関数
3.1 固体境界の影響
3.2 ヘルムホルツ方程式
3.3 相反定理
3.4 時間調和コンパクトグリーン関数
3.5 剛体球に対するコンパクトグリーン関数
3.6 柱状物体に対するコンパクトグリーン関数
3.7 対称コンパクトグリーン関数
3.8 振動物体からの低周波音放射
3.9 コンパクトグリーン関数のまとめと代表的な例
問 題3
第4章 渦 度
4.1 渦度と非圧縮流の運動エネルギー
4.2 渦度方程式
4.3 ビオ-サバールの法則
4.4 渦度で表された非圧縮流における表面力
4.5 複素ポテンシャル
4.6 渦糸の運動
問 題4
第5章 渦 音
5.1 ライトヒルの理論における渦度の役割
5.2 渦音の方程式
5.3 渦と物体表面の干渉による音
5.4 音響的にコンパクトな物体からの放射
5.5 コンパクトな断面を有する柱状物体からの放射
5.6 渦音のインパルス理論
問 題5
第6章 二次元における渦と物体表面の干渉による音
6.1 二次元におけるコンパクトグリーン関数
6.2 柱状物体と干渉する渦糸により生成される音
6.3 渦放出の影響
6.4 二次元における翼と渦の干渉による音
問 題6
第7章 三次元における問題
7.1 渦と翼の干渉による音の線形理論
7.2 三次元における翼と渦の干渉
7.3 球近傍の渦運動により生成される音
7.4 列車のトンネル突入時に生じる圧縮波
問 題7
第8章 さらなる演習課題
8.1 二次元における平板翼と渦の干渉
8.2 三次元における互いに平行な翼と渦の干渉
8.3 スポイラーを過ぎる渦
8.4 鈍体との干渉:円柱の場合
8.5 渦輪と球
8.6 壁に開いたすき間に向かう渦対
文 献
訳者あとがき
索 引