本書は、話題を楕円関数に特化し、それを歴史的な流れに沿って解説することで、数学の面白さに対する興味や関心が自然に繋がり高まっていくように試みたものである。楕円関数は、近年情報系分野の人たちにも注目されているが、何にもまして19世紀から20世紀の数学の方向を導いて来た話題である。クラインの言っていた三つの「A」、すなわち Arithmetic、 Analysis、 Algebra の統合・発展の契機となった話題であり、文化的な教養として取り上げるにふさわしい。また、本書の他に類を見ない特徴として「虚数乗法」の記述がある。楕円関数論にとって重大な役割を果たし、結局は100年をかけた類体論への道標となったものであり、アーベル、ヤコビ、クロネッカーらの系譜に流れているものを数学文化として顕在化しておくことは価値がある。本書は概観でしかないが、広大な数学世界へのひとつの足掛かりとしての役割を果たしてくれるだろう。
第1章 楕円積分とそのRiemann面
第2章 複素関数論から
第3章 楕円関数と周期加群
第4章 虚数乗法
第5章 超楕円積分とそのRiemann面
参考文献