粘性解
―比較原理を中心に―
粘性解は、1980年代初頭にCrandallとLionsによって、一階非発散型偏微分方程式の弱解として導入された。以後、様々な方程式に対して粘性解の一意性が示されるとともに一般的な仮定の下ではその存在と安定性が確かめられ、適切な弱解として認知されてきた。1980年代後半には、二階非発散型の楕円型・放物型偏微分方程式に対する研究も進展を見せ、現在では様々な分野への応用も広げられ盛んに研究されている。
本書は特に、粘性解の一意性を導くために重要な比較原理に焦点をしぼった構成となっている。一部、既存のテキストで触れられていない事項や、複数の文献に分散している命題の証明を丁寧に解説する。
専門的知識はなるべく最小限に留めるよう工夫し、また難しい命題の証明は付録にまとめ、他の文献を参照することがなくとも十分に知識を得られるよう配慮した。
1.1 記号・用語・表現
1.1.1 Euclid空間
1.1.2 線形代数
1.1.3 微分積分
1.1.4 関数の集合
1.1.5 Lebesgue積分
1.2 粘性解の導入
1.3 粘性消滅法
第2章 粘性解の定義
2.1 例
2.2 定義
2.3 同値な定義
第3章 比較原理
3.1 古典解と粘性解の比較原理
3.2 粘性解の比較原理
3.2.1 一階偏微分方程式
3.2.2 二階偏微分方程式
3.3 構造条件に関する注意
3.4 放物型方程式
3.5 境界値問題
3.5.1 Dirichlet境界値問題
3.5.2 Neumann境界値問題
3.5.3 全空間での比較原理
第4章 比較原理-再訪-
4.1 関数の近似
4.2 関数の二重近似
4.3 比較原理の別証明
4.4 一般論が適用できない重要な方程式
4.4.1 平均曲率方程式
4.4.2 Aronsson方程式
第5章 存在と安定性
5.1 Perronの方法
5.2 一階偏微分方程式の解の表現公式
5.2.1 Bellman方程式
5.2.2 Isaacs方程式
5.3 安定性
付録A
A.1 Jensenの補題
A.2 Ishiiの補題
A.3 Aronsson方程式 -再訪-
付録B
B.1 Rademacherの定理
B.1.1 1変数関数の場合
B.1.2 多変数関数の場合
B.2 弱逆関数定理
B.3 Aleksandrovの定理
B.4 変数変換の公式(定理B.16)の証明
問題解答例
あとがき
参考文献