感染症に挑む
―創薬する微生物 放線菌―
放線菌は「抗生物質」という、言わば、細菌を死滅させる「毒物」をつくりながら、自身はその毒から逃れるための機構をもっている。本書では著者の長年の研究を織り交ぜながら、抗生物質生産菌における生体防御の機構を興味深く解説し、医療にとって深刻な、ほとんどの抗生物質が効かない「多剤耐性菌」と、それに対処するための「次世代感染症治療薬」の開発に関する話題についても触れている。
大村 智北里大学特別栄誉教授は、米国の大手製薬企業との共同研究を進め、土壌から分離した放線菌の1つが寄生虫に有効な抗生物質「エバーメクチン」を産生することを発見したことが功を奏し、ノーベル賞受賞者となった。本書では、産学連携の必要性や、エバーメクチン生産菌を始め、抗生物質をつくる放線菌のゲノム解析から見えてくるトピックスを取り上げている。
本書は、肺炎によるわが国の死亡率が第3位であるという、現代日本の社会状況の中で上梓されたタイムリーな一冊であり、将来、研究者をめざす若い読者を鼓舞するであろう。また、感染症の制圧を目指して新薬開発に取り組む研究者や放線菌の研究者にとっても座右の書になるに違いない。
1 人類を襲う感染症
1.1 最恐なる感染症
1.2 抗生物質と感染症
1.3 エマージング感染症
1.4 病原体の感染による病状の特徴
2 感染症治療薬の歴史
2.1 化学療法剤
2.2 半合成ペニシリンの開発
2.3 放線菌が生む抗生物質
3 抗生物質の種類と作用機序
3.1 化学構造の特徴による抗生物質の分類
3.2 半合成抗菌剤
3.3 抗生物質の作用機序
4 抗生物質耐性菌の脅威
4.1 薬剤耐性菌の出現
4.2 MRSAとVREおよびディフィシル菌の脅威
4.3 新たな抗生物質の開発
5 抗生物質を生む放線菌
5.1 放線菌の特徴
5.2 抗生物質の生産を制御するスイッチ
5.3 抗生物質生産菌の自己耐性
5.4 放線菌のゲノム情報
5.5 抗生物質が遺伝子発現を制御する
6 次世代感染症治療薬
参考図書・引用文献
跋 文
感染症と,放線菌のつくる抗生物質そのせめぎ合いに迫る(コーディネーター高橋洋子)
索 引