フラーレン・ナノチューブ・グラフェンの科学
―ナノカーボンの世界―
ナノカーボンには、球状のフラーレン、円筒状のナノチューブ、平面状のグラフェンと、0次元、1次元、2次元の物質が代表的である。本書は、この3つの物質を追求してきた著者が、幅広い分野の若い世代の読者に、研究者一人の視点から3つの物質に共通の言葉と高校から大学初年度程度の式を用いて、ナノカーボンの歴史と今日の最前線、そして将来の課題をコンパクトにまとめたものである。ハンドブック的な知識だけでなく、ストーリ―としてナノカーボンを理解できるよう執筆している。
本書の少なくとも半分は、一般の読者や高校生でもわかるように、式や難しい言葉を一切使わずに解説した。一方、本書の残り半分は最前線の知識を正確に伝えるために、専門的なこともすべて解説した。その解説をするために、必要な専門用語の説明を本文以上の量の脚注で説明した。ナノカーボン研究者・大学院生がまず最初に読み、携帯する副読本としても最適である。本書を読み進めるにあたって、各章のレベルは★☆のマークで示した。とくに☆の章には大学で使う数式や知識が必要であるので、読み飛ばしてもらっても影響がないよう構成に配慮している。具体的には本書の読み方をご参照いただきたい。
本書には、若い研究者へのメッセージも込められている。大学で何の研究をしたいか、大学で研究をするとは何か、科学の発見とは何か、どうやって研究者になるか、ぼんやりわかっていることを、ずばり現場の研究者が語りかける。
この内容は、ほかの分野の研究に着手する若い研究者も、頭のどこかに残しておいて決して損はないことであろう。
本書は、ナノカーボンの広い研究分野を俯瞰した、ナノカーボン研究者のバイブルである。
1.1 ナノカーボンの世界★
1.1.1 ナノメートルの大きさ★
1.1.2 炭素は地球を循環する★
1.1.3 鉛筆の芯からノーベル賞★
1.1.4 宇宙ヨットからタッチパネルまでの応用★
1.1.5 ナノカーボンの形と機能★
1.1.6 21世紀はカーボンの時代★
1.2 ナノテクの話★
1.2.1 見えない領域は未開拓だった★
1.2.2 小さい方が有利★
1.2.3 ナノテクを実現するには? ★
1.2.4 ナノテクのかなめの半導体★★
1.2.5 もし炭素が半導体になったら? ★
第2章 ナノカーボンの発見★
2.1 C60の発見★
2.1.1 星からのメッセージ★
2.1.2 C60と亀の甲羅の丸い理由が同じ★
2.1.3 オイラーの多面体定理★★
2.1.4 C60発見後の展開★
2.2 カーボンナノチューブの発見★
2.2.1 捨てられた電極★
2.2.2 ナノチューブの丸め方★
2.2.3 ナノチューブ発見後の展開★
2.3 グラフェンの発見★
2.3.1 セロハンテープではがす★★
2.3.2 グラフェン発見の前の研究★
2.3.3 グラフェン発見後の展開★
2.4 まとめ,発見するとは? ★
2.4.1 発見の前に発見者あり:必然的な流れ★
2.4.2 発見の重要性を説明する:プレゼンが重要★
2.4.3 予想外の結果を考える:好奇心が科学★
2.4.4 巨人の肩に乗る★
第3章 ナノカーボンの形★
3.1 グラフェンは六方格子★
3.2 フラーレンの展開図★★
3.3 ナノチューブの展開図★★
3.3.1 ナノチューブの分類★★
3.3.2 並進ベクトル:T★★
3.3.3 対称性ベクトル:R★★★
3.4 多層構造★★
3.4.1 グラフェンのAB積層★★
3.4.2 多層ナノチューブ★★
第4章 ナノカーボンの合成★★
4.1 レーザーアブレーション法,抵抗加熱法,アーク放電法★★
4.1.1 すすからフラーレンの分離,クロマトグラフィー★★
4.2 化学気相成長によるナノチューブ合成★★
4.3 ナノチューブの分離精製法★★★
4.4 アガロースジェルを用いたナノチューブ分離法★★★
4.5 果てしなき挑戦★★★
第5章 ナノカーボンの応用★
5.1 フラーレンの応用★
5.2 ナノチューブの応用★★
5.3 グラフェンの応用★★
5.4 安全性とコスト,課題と展望★★
第6章 ナノカーボンの電子状態★★★
6.1 C60 の分子軌道★★★
6.1.1 原子軌道を用いた分子軌道★★★
6.1.2 広がった軌道を用いる方法☆☆☆
6.2 グラフェンのエネルギーバンド★★★
6.3 単層ナノチューブのエネルギーバンド☆☆☆
6.3.1 ナノチューブの状態密度とファンホーブ特異性
第7章 ディラックコーンの性質☆☆
7.1 ディラックコーン上の電子の質量は0☆☆
7.2 ディラック点のエネルギーギャップは0☆☆
7.3 ディラック電子は反磁性☆☆
7.4 クライン・トンネル効果☆☆
7.5 後方散乱の消失☆☆☆
7.6 ディラックコーン付近の波動関数(擬スピン)☆☆☆
7.7 グラフェンの2つのディラックコーンとバレースピン☆☆
7.8 ナノチューブでのディラックコーン☆☆
第8章 グラフェンとナノチューブのラマン分光☆☆
8.1 ラマン分光とは☆☆
8.2 ナノカーボンのラマン分光☆☆
8.2.1 Gバンド☆☆
8.2.2 Dバンド☆☆
8.2.3 G (2D)バンド☆☆
8.2.4 RBMバンド☆☆
8.3 共鳴ラマン分光☆☆☆
8.3.1 2つの共鳴条件☆☆☆
8.3.2 固体での共鳴ラマン散乱☆☆☆
8.3.3 2重共鳴ラマン散乱☆☆☆
8.4 ラマン分光の使い方☆☆
8.4.1 ナノチューブの構造の決定☆☆
8.4.2 グラフェンのラマン分光☆☆☆
第9章 未来への課題★★
9.1 科学の成果のもつ意味★
9.2 炭素を研究する分野の合流と分化★
9.2.1 炭素材料と化学★
9.2.2 ナノカーボンと固体物理学☆
9.2.3 固体物理から他の分野へ展開☆
9.3 ナノチューブ・グラフェンでのディラック粒子★★★
9.3.1 クライントンネリングの特殊性☆☆
9.3.2 擬スピンを操作する☆☆☆
9.3.3 プラズモニクス☆☆☆
9.4 オールカーボンデバイス(すべて炭素でできた集積回路)
9.5 ナノチューブでできた太陽電池,発光デバイス★★★
9.6 原子層のサンドイッチ★★
9.7 未来に展開する問題★★
9.7.1 宇宙エレベーター★★
9.7.2 すべて炭素でできたパソコン★★
9.7.3 室温での量子現象★★★
関連書籍
-
金属錯体の二次元物質 配位ナノシート
価格:2,200円(税込)