多くの大学の理系学部において、教養のための基礎科目として「化学」が開講されている。三重大学工学部分子素材工学科ではカリキュラムの改訂に伴い、大学1年生向けに「化学基礎」を開講し、約100名の学生を10名程度のグループに分け、講義とPBL(Problem Based Learning)を組み合わせたユニークな取り組みを行っている。教科書として、国内で出版されている入門化学や基礎化学に関するほとんど全ての本を検討したところ、少人数で執筆することによる2つの弊害が見出された。第一に、執筆者の専門分野は詳しく記述されているが、専門分野外はほとんど執筆されていない場合が多く、分野のバランスが片寄っている。第二に、高校の教科書と同じぐらい平易か、専門書なみに難しいかの両極端であり、高校と大学専門教育との間に位置するレベルの本がほとんど無い。以上のような背景から、全ての分野をその専門家が執筆するという考えに至り、分子素材工学専攻の教員30名全員で教科書を執筆することになった。したがって、本書は、物理化学、無機化学、分析化学、有機化学、高分子化学、生物化学の化学全ての分野を、その専門家が網羅するという特徴をもった教科書である。内容のレベルは、高校と大学専門教育との間に位置するよう、教科書全体に細心の注意を払った。高校と大学とをつなぐ、特色のある使いやすい教科書になっている。
第1章 化学の学習の前に
第2章 物質の構造
第3章 物質の状態
第4章 物質の変化
第5章 単体と無機化合物
第6章 有機化学
第7章 高分子化学
第8章 生物化学