生産と市場の進化経済学
経済学の予備的な知識のない人にも読んでもらえるように、基礎的なことから記述しているが、入門書ではない。初めはやや硬い内容だと感じられるかもしれないが、近年の新しい研究手法である人工市場研究にも触れてある。意欲のある方にはおもしろいであろう。あるいは一度、経済学を学んだことのある人や、進化経済学になじみのない大学院生・若手の研究者にとっては、経済学がこのような学問であったのかと意外に感じられて、一層、進化経済学に興味を持たれるかもしれない。
元来、経済学は個人の幸・不幸や国の進路について直接的な解を提供するものではないが、一人ひとりの幸福に関わる社会の基盤に関する知識を深いところから提供する。経済現象に関心を持ち、市場経済の成り立ちや仕組みを理解することは、結果的に学ぶ意図とは異なり、不愉快な気分になるかもしれない。しかしその理解は、個々人が様々な生活の場において下さなければならない様々な判断の重要な軸となるはずである。巨大な市場経済の力を前にして私たちはどのように対処すればいいのだろうか。そのような思いをめぐらす21世紀を担う若者にはぜひ一読していただきたい。
1.1 経済学の「核」
1.2 経済行為と目的
1.3 人と市場
第I部 循環する生産
第2章 生産活動
2.1 生産の重要性
2.2 市場経済の確立
2.3 生産に必要なもの
第3章 生産と消費
3.1 米生産経済の循環モデル
3.2 物量表示と金額表示
3.3 日本の国内総生産
3.4 付加価値
3.5 消費と学習
3.6 二つの富の概念:ストックとフロー
第4章 多数財モデルへの拡張
4.1 物量体系のモデル
4.2 上乗せ価格
4.3 金額体系のモデル
4.4 逆行列 (I-A)-1と生産波及
4.5 非負逆転可能定理
4.6 日本の産業連関表とGDP
第5章 失業問題と国民所得決定
5.1 日本の労働力の実態
5.2 失業の原因と有効需要の原理
5.3 投資が外生変数の場合の国民所得決定
5.4 乗数過程と企業の生産水準
5.5 投資が内生化された場合の国民所得決定
5.6 投資の決定とその影響
第II部 市場と道徳
第6章 交換と市場
6.1 教科書の記述
6.2 交換の理由
6.3 交換の前提:個別的所有と自由について
6.4 交換の普遍性
6.5 自生的秩序としての市場:第三の分類について
6.6 市場の自生的生成の原因:人間の限定的能力と行動のルール
第7章 貨幣の生成と金融制度
7.1 物々交換と市場性
7.2 一般通用交換手段と貨幣の本性
7.3 近代の貨幣制度
7.4 貨幣供給と中央銀行
7.5 金融市場と企業の資金調達
7.6 先物市場
第8章 価格形成と市場の意義
8.1 2種類の価格決定方法:固定価格と伸縮価格
8.2 東京証券取引所の取引方式
8.3 森嶋による「経済学者の定式化」
8.4 取引の実現と市場の意義
第9章 道徳の起源と経済進化
9.1 道徳の生成と伝播
9.2 経済進化の特徴
9.3 経済進化に関する二つの説に関連して