多様体 第2版
本書は、初版刊行以来二十年近くの年月を経たが、多様体論への入門書として多くの人々に読まれ、またこの間にわが国で著されたいくつかの数学書に読者への参考文献として引用して頂いている。こうして本書がいまなお些かでも世の役に立っているかと思うと、著者としてこれ以上の幸せは無い。そこで、今後の読者のため参考文献を補うべきと思い、これを動機に旧版の改訂増補を行うこととなった。
改訂事項としては、旧版の本文についてはこれを改めず、その脚注に挙げた文献について多少の追加と変更をするに止めた。また、巻末に旧版刊行以後に現れた国内外の多様体論に関する主な著作を参考文献に追加し、簡単な紹介を付して読者の便宜を図った。
数学的内容をもって加筆したのは次の二点である。いくつかの演習問題を補充したが、この形で旧版で触れていないシンプレクティック多様体と古典力学の基礎的事項を解説した。演習問題1.8、2.6、2.7、3.6、4.5、4.6がこの意図のもとに加えられたもので、その多くには略解が付けてある。数理物理学が画期的に発展しつつある現代にあって、古典力学の多様体論的基礎が入門書にあってもよいであろう。これら一連の演習問題を解けば、専門書による古典力学の数学的理解に役立つことと思う。なお、本書の演習問題の多くは読者への研究課題であり、学生諸君のレポート問題に適しているかもしれない。
いま一つは付録を増補して、ボホナーの定理という調和形式論の重要な結果を紹介した。これは現在ボホナー技法とよばれる証明法の起源であり、読者がこれによって現代数学の美しい手法の一端を味わわれることを期待している。
1989年3月 著者
- 第1章 可微分多様体
- 1.1 数空間 R n における準備
- 1.2 可微分多様体
- 1.3 C ∞関数とC ∞写像
- 1.4 C ∞関数の性質
- 1.5 接ベクトル空間
- 1.6 C ∞関数とC ∞写像の微分
- 1.7 ベクトル場
- 1.8 ベクトル場とC ∞関数環
- 1.9 リーマン計量
- 演習問題1
- 1.2 可微分多様体
- 第2章 微分形式
- 2.1 交代形式
- 2.2 微分形式
- 2.3 微分形式の外微分
- 2.4 微分形式とベクトル場
- 2.5 微分形式への種々の作用素
- 演習問題2
- 2.2 微分形式
- 第3章 多様体のコホモロジー理論
- 3.1 多様体のコホモロジー群
- 3.2 多様体の特異ホモロジー群
- 3.3 ストークスの公式とド・ラームの定理
- 3.4 多様体の向き
- 3.5 n 次微分形式の積分
- 3.6 内積のあるベクトル空間の上の交代形式
- 3.7 リーマン多様体上の調和形式
- 3.8 リーマン多様体のコホモロジーと調和形式
- 演習問題3
- 3.2 多様体の特異ホモロジー群
- 第4章 多様体の線形接続
- 4.1 リーマン多様体の測地線
- 4.2 線形接続と接ベクトルの平行移動
- 4.3 接ベクトル空間の平行移動
- 4.4 ベクトル場の共変微分
- 4.5 テンソル
- 4.6 テンソル場
- 4.7 テンソル場の共変微分
- 演習問題4
- 4.2 線形接続と接ベクトルの平行移動
- 第5章 複素多様体
- 5.1 複素多様体
- 5.2 複素ベクトル場
- 5.3 複素微分形式
- 5.4 外微分作用素の分解
- 5.5 エルミート計量
- 5.6 ケーラー多様体
- 5.7 複素多様体の線形接続
- 演習問題5
- 5.2 複素ベクトル場
- 付録 共変微分と調和形式
- A.リーマン多様体上の調和形式
- B.エルミート多様体上の微分形式
- C.ケーラー多様体上の調和形式
- B.エルミート多様体上の微分形式
- 参考文献とあとがき
- 第2版参考文献とあとがき
- 索 引
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