可積分系の機能数理

書籍情報
シリーズ名共立叢書 現代数学の潮流 
ISBN978-4-320-01804-4
判型A5 
ページ数224ページ
発行年月2006年04月
本体価格3,600円
可積分系の機能数理 書影
可積分系の機能数理

 本書は,モーザーの戸田方程式研究を祖形とする直交多項式論に基づく可積分系の研究,とりわけ,可積分系のラックス表示,タウ関数解,さらには,可積分な離散化について統一的な視点から論じる。直交多項式は近似理論を通じて数値計算法の数学的基礎となっており,直交多項式を用いた可積分系の記述は,同時に,可積分系の機能数理の解明に直結する。本書で議論の対象とする可積分系は,この方面の中心に位置する有限,半無限の戸田方程式,および,ロトカ・ボルテラ方程式に限定する。
 まず,2章では,サイムスの発見の元となったモーザーによる有限非周期戸田方程式の研究を概観する。モーザーの論文は様々な示唆に富むもので,その後のKP方程式階層,戸田方程式階層の研究の先駆けともみることができる。2重括弧のラックス表示をもつ可積分な勾配系研究の出発点でもある。
 3章では,本書の数学的基礎として,直交多項式とその連続時間可積分系との関係についてまとめる。
 4章では,直交多項式論に基づいてルティスハウザーのqdアルゴリズム(離散時間戸田方程式)を導出し,その性質と応用について様々な角度から論じる。さらには,同様な方法で離散時間ロトカ・ボルテラ(dLV)方程式を導く。その結果,差分ステップサイズを任意の大きさ選ぶことのできるという著しい性質をもった離散力学系が自然に現れる。
 5章では,dLV方程式によって行列の特異値が数値安定に計算できることが示される。これはqdアルゴリズムにない大きな利点である。さらに,数値安定性を壊すことなく原点シフトを導入することができ,その結果,3次収束性をもつ高精度・高速な新しい特異値計算法「mdLVsアルゴリズム」が誕生する.現代の標準解法である原点シフトつきQR アルゴリズムと比べて,より高精度より高速なアルゴリズムであり,ルティスハウザーの夢が50年の歳月を経て,ようやくここに実現したといえる。
 躍進は特異値計算に留まらない。6章では,新たな可積分系dLV型変換の導入により,高精度な特異ベクトル計算法が定式化される。この結果,3種類のdLV型漸化式を駆使した,新しい特異値分解法「I-SVDアルゴリズム」が実現される。
QR アルゴリズムに基づく現代の標準ルーチンと比べて,特異値はかなり高精度,特異ベクトルの精度はほぼ同等,計算時間で圧倒的に高速である。
 本書は,可積分系と直交多項式を理論的支柱とした,数理としての面白さだけでなく,シンプルで力強く,役に立つから重要であるという新しい研究領域「可積分系の機能数理」誕生の報告である。
(第1章より抜粋)

目次

第1章 序論

第2章 モーザーの戸田方程式研究:概観
1.有限非周期戸田方程式
2.戸田方程式の可積分性
3.戸田方程式の解の挙動
4.戸田方程式と固有値計算の QR アルゴリズム
5.戸田方程式階層
6.戸田方程式と QR アルゴリズム―再考―
7.有理関数空間の幾何学と戸田型方程式
8.戸田方程式のタウ関数解
9.可積分な勾配系としての戸田方程式

第3章 直交多項式と可積分系
1.直交多項式の基礎
2.クリストフェル・ダルブーの公式
3.直交多項式の零点
4.直交多項式,連分数とパデ近似
5.モーザーの研究と直交多項式

第4章 直交多項式のクリストフェル変換とqdアルゴリズム
1.直交多項式のクリストフェル変換
2.クリストフェル変換と不等間隔離散戸田方程式
3.対称な直交多項式のクリストフェル変換
4.ルティスハウザーのqdアルゴリズム
5.qdアルゴリズムによる行列の固有値計算
6.qdアルゴリズムによる連分数展開とパデ近似

第5章 dLV型特異値計算アルゴリズム
1.行列の特異値と特異値分解
2.qdアルゴリズム型特異値計算アルゴリズム
3.dLVアルゴリズムによる特異値計算
4.dLVアルゴリズム:基本的性質
5.シフト付きdLVアルゴリズムmdLVs
6.mdLVsアルゴリズム:収束定理
7.mdLVsアルゴリズム:収束次数
8.mdLVsアルゴリズム:数値実験
9.まとめ

第6章 特異値分解I-SVDアルゴリズム
1.種々の特異値分解アルゴリズム
2.dLV型変換による2重コレスキー分解
3.ツイスト分解による特異ベクトル計算
4.I-SVDアルゴリズム:数値実験
5.おわりに

第7章 結論

参考文献
索引