レンズ設計法

書籍情報
シリーズ名光学技術シリーズ 【1】巻
ISBN978-4-320-03098-5
判型A5 
ページ数162ページ
発行年月1972年11月
本体価格3,300円
レンズ設計法 書影
レンズ設計法

 本書は現在のレンズ設計技術を,その背後にある考え方とともに体系的に述べたものであって,3年ほど前,応用物理学会の分科会である光学懇話会が発行している“光学ニュース”に講義として連載したものに手を加え,まとめ直したものである。
 考えてみると,20年位前になるが,ふとしたことから私がレンズ設計に手を出すようになった頃は,まだ数値計算に対数表や手回しの卓上計算機が幅をきかせていた時代で,私自身対数計算で四苦八苦した思い出がある。しかし,その後電動計算機,リレー式計算機,初期のコンピュータ,そして現在の高性能のコンピュータへと計算手段の面での進歩は目覚ましく,それに伴って,レンズ設計も少なくとも外見的には大きな変貌をとげた。とくに大きく進歩したのは,レンズの性能を計算によって評価したり改善したりする技術的な面であるが,依然として変わらないのは,仕事の内容が試行錯誤から成り立っているという本質的な面である。仕事の本質が試行錯誤的であるということは,仕事を進めるのに多くの行き方が考えられるということでもある。事実,理論的な裏づけのある手段によって仕事を合理化しようとする立場が大勢を占めている最近でも,個人的経験や直観的判断だけに頼っている設計者もいない訳ではないのである。しかし,レンズ設計が技術として通用するためには,優れたレンズを設計できる根拠が,単に個人の経験や直観だけというような状態では話にならないのであって,第三者に説明のできるような技術手段と論理とを背後にもっていることが必要であろう。これが本書を書くに当っての私の基本的な考え方である。
 ところで,レンズ設計という仕事について,私がある明確なイメージと意欲とを持つようになったのは,ひとえに,私が設計に関係するようになって間もなく読んだM.Berekの名著Grundlagen der praktischen Optikから受けた刺激によるものである。レンズ設計に限らず,一般に設計と呼ばれる仕事には,本質的にある種の自由度がつきまとっている。設計者は,与えられた自由度の範囲内で,多くの選択をしなければならない立場に立たされる訳であるが,どういう選択が正しいのかは経験ある設計者でも見通し得ない場合が多々あり,結局は個々の設計者が,それぞれの時点で,独自の総合判断で選択を行ない,結果がどうなるか試してみるという試行錯誤的な行き方をとらざるを得ないのが実情である。こうした点を考えると,レンズ設計を技術として確立するためには,二つの面に対する配慮が必要であるように思われる。その一つは,設計者が構想を決定してから,それを具体的なレンズの形状として実現するまでのプロセスを体系化し,合理化することであり,そしていま一つは,複雑な総合判断によって構想を決定しなければならない設計者に,できるだけ理論面から考え方のよりどころを与えることである。レンズ設計について書かれた書物はもともと少ないのであるが,これらの点に明確な問題意識をもって書かれたものは,今考えてもBerekの著書以外にはないように私には思われる。しかし,何といってもこの原著の刊行が1930年であることから来る時代のズレだけはどうすることもできない。このことは,Berekの方式を仕事に適用しようとして,私自身が痛感させられたことであった。これを何とか時代の要請に適合するように書き改めたいという気持から,私は非才をもかえりみず,今日まで仕事と併行して努力を重ねてきた。その結果をどうにかもっともらしい形にまとめたのが本書なのである。
 今日,レンズ設計に関連する技術は多岐にわたっているが,紙面が限られていることもあって,本書では話を本質的な問題だけに絞らざるを得なかった。本書の中で私がとくに重点を置いているのは,光学系の具体的な形状を決定する際の基礎になる近軸理論と収差論とである。近軸理論では光軸方向の量をすべて媒質の屈折率で割った“換算量”という概念を導入することによって,設計に際しての取り扱いにいっそう融通性が出てくることを強調したつもりである。また収差論では,瞳の近軸量を消去した形式のBerekの公式が,かえって適用範囲をせばめる結果になっている点を考慮して,瞳の近軸量を含んだ形式を採用し,かつ最近の多様な要求にも応じられるように次数を5次まで拡張したほか,各種の変換公式などもできるだけ多く記載した。こうした点については,Berekの邦訳書(巻末の文献の項を参照)も出ていることであるし,それと比較して御批判いただければ幸いである。本書の記述には,現在の技術レベルの点から,若干問題を残している個所もない訳ではないが,こうした個所はいずれ可能になった時点で書き改めたいと考えている。
 私が本書を書くことができたことについては,いろいろな点で,私の所属しているキャノン株式会社の光学部の方々に負う所が大きいといわなければならない。とくに,南節堆氏には数式の検討から本書の校正に至るまで,ひとかたならず助けていただいた。また,本書の出版については,共立出版株式会社編集部の寺島善武氏に何かと御世話になった。ここに厚く御礼を申し上げる。

1972年10月 松居吉哉

目次

第1章 序 論
  1.1 まえがき
  1.2 光学系の対称性と収差
    A.対称性の欠除としての収差
    B.光学系の対称性と収差

第2章 近軸理論
  2.1 幾何光学の前提と近軸理論
  2.2 符号の規約
  2.3 1個の屈折面および1個の簿肉レンズによる結像
  2.4 光学系の近軸追跡
    A.多くの薄肉レンズより成る光学系の近軸追跡
    B.一般の回転対称光学系の近軸追跡
  2.5 横倍率と焦点距離
    A.横倍率
    B.焦点距離
  2.6 Helmholtz-Lagrangeの不変量
  2.7 主点,焦点および節点
  2.8 焦点を基準にした結像式
  2.9 主点を基準にした結像式
  2.10 afocal系の角倍率と結像公式

第3章 光線追跡による性能評価
  3.1 光線追跡の概念
  3.2 光線追跡の公式
    A.面形状の表示
    B.近軸追跡公式
    C.Skew ray の追跡公式
    D.非点収差の追跡公式
  3.3 追跡条件の指定
    A.波長の選定
    B.光学系の瞳と追跡する光線の選定
    C.光線追跡の初期条件の計算
  3.4 収差の計算と表示方法
    A.近軸色収差
    B.球面収差
    C.正弦条件
    D.非点収差と像彎曲
    E.歪曲
    F.収差の総合的な表示方法
    G.周辺光量の推定
  3.5 精密な性能評価の計算
    A.スポットダイヤグラムと幾何光学的OTF
    B.その他の幾何光学的評価量
    C.波面収差の計算
    D.物理光学的な強度分布とOTF

第4章 収差論とその応用
  4.1 収差論と応用
  4.2 理想結像と3次の収差展開式
  4.3 収差論の公式
    A.面形状の表示
    B.必要な近軸追跡
    C.5次の収差展開式
    D.収差係数の計算公式
    E.収差係数間の関係
    F.入射瞳の移動に対する収差係数の変換
    G.物体平面の移動に対する収差係数の変換
    H.色収差の取り扱い
    Ⅰ.収差係数と実際の収差との対応
  4.4 収差論のレンズ設計への応用
    A.光学系の潜在性能の推定
    B.収差に関する基礎枕念の把握
    C.光学系の形状決定への応用

第5章 レンズ設計の実際
  5.1 設計の手順
  5.2 自動設計技術の概要
  5.3 設計の方針設定について
    A.方針設定の基盤
    B.簡単な事例研究
  5.4 仕事の正規化について
    A.収差表示法の正規化
    B.設計手順自体の正規化

文献
索引