狭義の原子核物理学は,原子核を対象として構造と反応の研究をする学問であるが,広義の原子核物理学は,それに加えてハドロンの構造と反応の現象やクォーク・グルーオン多体系の物性を含む分野である。ハドロン物理学とは,ハドロンやクォーク・グルーオンの相互作用を記述する理論である量子色力学を基礎にして,ハドロンの構造と反応の現象やクォーク・グルーオンの物性を研究する学問である。また,ハドロン物理学を,広い意味では原子核の構造や反応の研究も含む意味で使用する場合もあり,「ハドロン物理学」と「原子核物理学」の使い分けは必ずしも明白ではなく,総称してハドロン原子核物理学と呼ぶ場合もある。本書では,原子核物理学を,量子色力学を基礎とした強い相互作用をする量子多体系の構造,反応,物性を研究する物質構造分野とみなして解説した。
従来,原子核物理学の参考書では陽子,中性子と中間子の自由度を用いて原子核の構造と反応が解説されてきたが,本書ではあえてそのような方針は取らず,量子色力学を基礎としたクォーク・グルーオン多体系としてのハドロンと原子核について解説し,これを「原子核物理学」と位置づけた。そのため本著では,まず基礎理論である量子色力学を解説している。
本著は,量子色力学の基礎からハドロン及び原子核物理の基礎を広く,また詳細に解説した参考書であり,これから原子核物理学の最前線の研究を志す学生に必要な内容を網羅している。