本書は,大学で初めて熱力学を学ぶ学生のための演習書である。自習書としても講義の参考書としても適している。読者は,初等的な力学の知識と,高校や大学1年で学ぶ微積分の素養をもっていると想定している。各章冒頭の《内容のまとめ》を読み,例題と発展問題を解くことによって,熱力学の基礎が身につくだろう。論理的な流れを重視した構成になっているので,はじめから順番に問題を解いていくのが効果的だ。
標準的な熱力学の教科書において,熱機関に関する「カルノーの定理」から「クラウジウスの不等式」を経て「エントロピー」を導入するまでの一連の議論は,初学者にはつまずきやすい箇所である。本書では,この部分に新しいアプローチを取り入れて,エントロピーがより理解しやすくなるように工夫している。また,エントロピーを扱う具体的な問題を多く用意しているので,エントロピーに慣れ親しむことができるだろう。さらに,熱力学をさまざまな問題に応用する際に必要な,偏導関数の書き換えの手順をフローチャートとしてまとめてあるので,式変形の森で迷子になる心配もない。熱力学の基礎が理解できて,計算力も身につく一冊である。