これまで水滴が固体の表面でどれくらい丸くなるか,といった,時間の概念を伴わない静的な濡れの現象は,主にコロイド界面科学分野で,また,液体がどれくらい速く移動するかといった,動力学的な挙動は,主に流体力学分野でそれぞれ取り扱われてきた。このため,これらを橋渡しして「固体表面での静的・動的濡れ性を制御する」ためのサイエンスを解説した教科書は,従来はほとんど存在しなかった。
しかしながら,この学術内容は様々な工学分野で近年重要性を増しており,研究も急速に盛んになっている。とりわけ,「超親水性」と「超撥水性」は基礎研究においても応用においても,この分野で最も重要なトピックスになっている。筆者はこの状況に鑑み,固体表面化学の視点から,主に材料科学,応用化学の学部2,3年生を想定し,固体表面の濡れ制御に関する基礎的な内容を本書に取り纏めた。