がんと遺伝子―機能から診断・治療まで― 

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書籍情報
ISBN978-4-320-05517-9
判型B5 
ページ数360ページ
発行年月1999年01月
本体価格5,400円
がんと遺伝子 書影
がんと遺伝子

 トリ肉腫ウイルスのがん遺伝子V-srcに相同な遺伝子がヒトをはじめとする脊椎動物の細胞染色体上に見いだされてからちょうど20年が経過した。この間に30種類あまりのウイルスがん遺伝子と,それに相当する細胞遺伝子つまりがん原遺伝子が同定されている。また,ヒトの細胞のなかで,種々の変異で活性化されて細胞がん化能をもつようになりうるがん原遺伝子と,逆に種々の変異で不活性化されて細胞のがん化の原因となりうるがん抑制遺伝子が数多く見いだされている。それらがん原遺伝子やがん抑制遺伝子に類似しファミリーを形成しているがん関連遺伝子を含めると,ヒト染色体上には優に100種類以上の,少なくとも潜在的には発がんにかかわる遺伝子が存在することが明らかになってきた。これらがん関連遺伝子については,分子レベル,細胞レベル,そしてトランスジェニツクマウスや遺伝子欠損マウスを利用する(発生工学)個体レベルでの解析が精力的に進められ,発がん機構に関しての知見が蓄積してきた。その結果,がんは細胞内に存在する遺伝子の発現と機能の正常からの逸脱によってひき起こされる疾病であることが明らかにされた。当然のことながら,このような研究成果はがんの診断・治療に還元されるべきであり,すでに幾多の試みがなされている。
 一方で,がん関連遺伝子の機能解析は,それらの産物が正常細胞の増殖・分化の調節,さらには細胞死の調節に密接にかかわり,生命現象の営みに重要な役割を果たしていることを明らかにした。すなわち好むと好まざると,がん関連遺伝子の研究は生物学から医学までを包含する生命科学の進展に多大の貢献をなしているのである。その結果,がんは生命現象のひとつとして捉えられ,がんの基礎研究が生命科学に関する研究と不可分のものであると認識されるに至っている。
 このように,発がん機構の研究はある意味で円熟期に入っていると考えられる。本書では,がんの基礎研究から臨床応用までの幅広い領域において高いレベルでの研究を展開している第一線の研究者の方々に,最新の成果をまとめていただいた。そのことにより,遺伝子レベルで進められてきたがん研究が生物の理解にどのように有用であるのかを浮き彫りにしながら,現代のがん研究ががんの予防・診断・治療にいかに貢献しようとしているのかを明らかにできれば幸いである。
(「蛋白質 核酸 酵素」臨時増刊を単行本に改装発行)

目次



がん遺伝子.がん抑制遺伝子発見の歴史

I.がん遺伝子とシグナル伝達
概説
腫瘍血管形成とFltチロシンキナーゼ
受容体型チロシンキナーゼと細胞増殖
SH2,SH3,PHドメインとシグナル伝達
アダプター分子Casと細胞接着
RasとRho低分子量G蛋白質の機能と作用機構
MAPキナーゼのシグナル伝達経路と細胞の癌化
TGF-βのシグナル伝達
サイトカイン受容体を介するシグナル伝達
がん化蛋白質Taxと細胞因子との相互作用

II.がん抑制遺伝子と細胞周期
G1サイクリン/Cdkと発癌
p53遺伝子変異と細胞癌化
p53癌抑制蛋白質の誘導
転写因子としてのp53蛋白質と細胞増殖の制御
サイクリン依存性キナーゼによるRB蛋白質のリン酸化と細胞周期の制御
転写因子E2Fと細胞増殖制御
Wilms腫瘍の癌抑制遺伝子WT1
ウイルスがん遺伝子とがん抑制遺伝子

III.がんとアボトーシス
概説
アポトーシスの分子機構-caspaseファミリー分子を中心にして
脂肪酸と細胞死誘導
bcl-2がん遺伝子と細胞死(アポトーシス)制御
リンパ球分化におけるアポトーシス
p53とアポトーシス

IV.がんの浸潤・転移と細胞接着
カドヘリンスーパーファミリー――カドヘリンの構造的・機能的性質と生理的役割
タイトジャンクションの分子構築と機能
インテグリンとリガンドの結合機構
Srcキナーゼと細胞のがん化――シグナル伝達系としての細胞接着装置
がん細胞の浸潤・転移とマトリックスメタロプロテアーゼ
がんの浸潤・転移と核内がん遺伝子

V.ヒトがんでの遺伝子異常と遺伝子診断
概説
遺伝性腫瘍
大腸癌
肺癌
胃癌
肝癌
乳癌
婦人科腫瘍

VI.概況
がん遺伝子治療の現況
がん遺伝子治療の戦略
遺伝子治療のベクター:レトロウィルスベクター
遺伝子治療のベクター:アデノウィルスベクター
リポソーム法