生物は生殖細胞の形成,受精,発生,複製といった営みを繰り返して存続し,進化し続けてきた。生物は多様な種,それぞれに固有の形態,あるいは自己修復能をどのように獲得してきたのであろうか。長い間,生物の生殖,発生,再生などの諸現象は不思議で神秘的なものであったが,近年の生物学は分子生物学という強力な武器を手にし,シロイヌナズナなどの植物,ショウジョウバエ,カエル,ゼブラフィッシュ,マウスなどのモデル動物を駆使した緻密で洗練された研究を重ねることによって,それら複雑な現象がどのように制御されているのか,遺伝子やタンパク質の働きとして理解することを可能にした。本書は「細胞分化・決定」,「位置情報」,「体軸の決定」,「細胞間相互作用」,「パターン形成」,「幹細胞からの再生」といった動植物の発生,再生の基本概念をとりあげ,初期発生ばかりでなく器官形成,再生を含めた形づくりの設計図(ボディープラン)ともいうべき分子機構について最新の知見をもとに解説する。