脳のフィジックス

書籍情報
シリーズ名シリーズ・脳研究への出発 
ISBN978-4-320-05591-9
判型A5 
ページ数268ページ
発行年月2004年05月
本体価格3,900円
脳のフィジックス 書影
脳のフィジックス

本書は,理学部や工学部で物理学の基礎教育を受けた学部4年生や修士過程の学生を対象に,自分が学んできた物理学が脳研究にどのように役に立っているのかを示し,脳機能科学を志す学生の良き指針となることを目的としている。実際に神経や脳研究に携わっている研究者たちが,若い頭脳が生物学と物理学とが完全に融合した次世代の脳科学研究を推進することを期待して,脳で起こっている典型的な生命現象を例にとり,その背後にある共通の論理を物理学的に捉えるための基本的な方法を示すところに本書の特徴がある。
脳は,ニューロンが様々な内的・外的入力情報に対して反応し,それらに応じた組み替えや複雑な相互作用を通してまったく新しい機能を生み出す(=情報処理を行う)非線形力学場である。第1章では,脳を力学的に捉えるための基本的な方法を示す。第2章では,単純から複雑化してきた脳の機能を理解するための基本として,時間の矢(=エントロピー)の概念を詳しく記述し,具体的な例に沿って非線形非平衡系熱力学の基礎を解説する。第3章・第4章では,情報処理器官としての脳をよく理解するために,物理学的観点に立った情報理論を解説する新しい試みを企てる。第5章では,脳の電気現象を理解するための基礎となる電磁気学を実践に基づいて詳しく解析する。第6章では,ニューロン間相互作用が場としてのシナプスでの物質交換のダイナミクスの最新事情について物理学的な解説を行う。

目次

第1章 脳機能と力学系
1 脳機能とダイナミクス

2 パターン形成ダイナミクスの基礎
2.1 微分方程式により定まる力学系
2.2 酵素反応の動力学
2.3 振動する酵素反応系
2.4 活性-抑制の動力学
2.5 反応拡散系におけるパターン形成の数理

3 細胞の脳機能
3.1 パターン形成と細胞知覚
3.2 リズムのパターンダイナミクスと行動
3.3 粘菌モデルとシミュレーション

第2章 単純から複雑への時間の矢―脳研究のために熱力学的基礎
1 熱力学的基礎

2 不可逆系のエントロピー
2.1 熱力学的ポテンシャル
2.2 化学変化に伴うエントロピー

3 開放系の熱力学
3.1 非平衡の基礎となる熱力学関係式
3.2 熱力学的力
3.3 質量,運動量,エネルギーおよび拡散に関する発展方程式
3.4 エントロピーの時間変化
3.5 エントロピー生成に関する原理
3.6 化学反応についての一例

4 生物学的エントロピー

第3章 ニューロンのダイナミクスと情報処理
1 現実の系から本質を抜き出す
1.1 特徴抽出のためのベース
1.2 注目する個所,スケールを決定

2 実際の神経細胞とは
2.1 神経細胞における情報を担うもの
2.2 活動電位が空間を伝播するメカニズム―細胞内伝達
2.3 活動電位伝播の特性の異なる視点―反応拡散方程式としてのFitzHugh-Nagumo方程式

3 神経細胞どうしの結合はどのようになっているか―細胞間伝達

4 新しいモデルの提案
4.1 興奮場の形状と拡散
4.2 興奮場の結合―対称結合
4.3 興奮場の結合―非対称結合

5 興奮場の非対称結合によって何ができるか
5.1 論理演算
5.2 生物の情報処理演算に向けて―信号のタイミングを用いた演算
5.3 仮説からいえること

第4章 情報とエントロピー
1 情報量とエントロピー
1.1 不確からしさと情報量
1.2 情報量とエントロピー
1.3 なぜ不確からしさ(情報量)はI =-log p なのか
1.4 先験的等確率の原理とエントロピーの基本的性質
1.5 最大エントロピー原理

2 物理的エントロピー
2.1 仕事⇔体積,熱⇔エントロピー
2.2 物理的エントロピーの増大
2.3 自然の成り行き―無秩序さへの傾向
2.4 統計力学的無秩序さと熱力学的エントロピー
2.5 ボルツマンのH定理

3 再び情報量とエントロピー
3.1 情報によりエントロピーが減少する
3.2 情報量単位bitの意味
3.3 熱力学的エントロピーと情報量

第5章 脳の電磁気学
1 神経細胞の機能

2 生体細胞膜の電位変化とその解析
2.1 膜起電力と等価回路
2.2 生体膜に等価な簡単な回路
2.3 イオンチャネルによる起電力の特徴
2.4 神経細胞機能の電気的記録法

3 単一チャネルの記録とチャネルの開閉機構
3.1 単一チャネルのコンダクタンスと開閉過程
3.2 チャネルポアとイオン選択性
3.3 膜電位依存性ゲーティング機構

4 イオンチャネル分子構造決定と機能
4.1 X線解析によるKチャネルの構造
4.2 点変異によるCaチャネルポア構造の解析

第6章 シナプスの物理
1 シナプス前神経末端のダイナミクス

2 開口放出の分子機構

3 シナプスの可塑性の生物物理的解析
3.1 短期可塑性
3.2 長期可塑性

4 イオンチャネルの構造と機能の解析

共同執筆者
上田哲男(第1章)/長谷川建治(第2章)/元池育子・吉川研一(第3章)/吉川 昭(第4章)/田中資子・高橋國太郎(第5章)/木島博正(第6章)