生物は,自ら環境を変化させる。その変化が,次の世代以降の進化に影響する─これがニッチ構築の主張だ。従来の進化理論では,生命は環境に対しては一方的に受け身にしか反応しない存在だった。選択は,常に「自然」が行う。だが,ニッチ構築進化論では,生物体はもっと能動的で主体的な存在だ。環境が生物体に働きかけるように,生物体も環境にはたらきかける。そのプロセスが進化にとっても生態学にとっても重要だ。本書の特徴は,この一見,過激とも思える主張を,科学的かつ合理的に展開している点である。実際の動物で見られるさまざまな証拠を膨大に集め,数理モデルを作って検討し,実証面でも理論面でも先行研究とのすり合わせを綿密におこなっている。大胆に、そして緻密に─科学において新しい理論を提唱するというのはどういう作業なのか,また,なぜ新しい理論化の作業が科学にとって必要なのか,それらのことが良く分かる好著だ。 人類の進化,とくに文化進化にもニッチ構築の考えかたは新しい視点を提供してくれる。ニッチ構築により,進化生物学と生態学,そして人類学の橋渡しが可能になるだろう。生物の進化と人間の歴史が,ひとつの連続体として描ける日も,そう遠くないかもしれない。著者のジョン・オドリン=スミーは,20年以上ニッチ構築についての研究をおこなってきた。より若い世代の動物行動学者ケヴィン・レイランドと,人類遺伝学の泰斗マーカス・フェルドマンが加わって,万全の布陣。進化に興味のあるすべての人,必読である。
[原著名:Niche Construction : The Neglected Process in Evolution]