ダイナミックな学問の変化を伝える一冊
「物理生物学 (Physical Biology)」は,伝統的な生物物理学 (Biophysics) の立場からさらに一歩踏み込んで,物理学の考え方と方法が生物学の中核となったことを表す新しい言葉である。これまで物理学の方法を用いて,タンパク質や核酸などの生体分子が研究されてきたが,学問の進歩とともに,生体分子の複合体,ネットワーク,細胞小器官,細胞,そして進化までが物理学の対象となり,物理学的アプローチが生物学の中核となる段階にまで発展してきた。本書は,この発展を担う研究現場の息吹を,わかりやすく読者に伝える現代的な教科書である。
本書を通して,現象を捉える出発点となる重要な物理量の見積もり,そしてモデル作りの発想と狙いが丁寧に説明されており,理論と実験の結果がわかりやすく定量的に比較されていて,本書を読むことで,物理学的アプローチとは何かが自然に理解できるように書かれている。
本書は学部生および大学院生を主な対象にしており,大学の講義や演習で用いたり,自習に用いるための様々な教育的配慮がほどこされた教科書であるが,同時に本書に解説された研究のアイデアや発想は,若手の,あるいはベテランの研究者にとっても興味深く,刺激的である。生物学を学ぶ学生にも,物理学を学ぶ学生にもどちらにも無理なく読めるような配慮がされており,生物学の,あるいは物理学の研究者にとっても,手にとって楽しい本である。