花粉の授受は,植物が子孫を残す上で必要なたくさんのステップのうちの1つに過ぎないが,ダーウィン以来,生態学の一分野として『送粉生態学』と認識されるほど数多くの研究が行われ,近年では,環境問題から新しい光が当てられるようになってきた。これは,人間活動による生態系やその機能への影響が深刻な環境問題として広く認識されながらも生態系の機能には変化を把握しにくいものが多く,その中で送粉は定量的評価が可能で,もっともデータが蓄積されているものの1つであるからだ。
そこで本書では,研究者や研究者を目指す方に限らず,生態学の専門知識をもたない方でも調査の目的や意義を理解できるよう,送粉のごく基本的な調査法について,生態学的な背景にも踏み込んで解説する。各章の最後に紹介する研究例にはできるだけ日本の植物を材料とした研究を選び,人間活動と送粉の関係について述べた章では多数の研究例を掲載し,本書で取り上げた調査法が大学や研究機関以外でも実践的に活かされるよう配慮している。
送粉生態学では,特別な道具がなくても誰でもいろいろなことを調べることができる。本書によってこのことを実感し,送粉に興味をもったり,研究の一助となったりすることがあれば幸いである。