森の根の生態学

書籍情報
ISBN978-4-320-05813-2
判型A5 
ページ数376ページ
発行年月2020年12月
価格4,400円(税込)
森の根の生態学 書影
森の根の生態学

 森の中で普段目に見えない地下部の世界では,樹木が「根」を土壌に張り巡らすことで,生態系を作りだし,森を支えている。樹木の根は,太い根で体を支え,隣り合う樹木の根でネットワークを作ることにより,表層崩壊や土砂流出を防ぐなど,様々な災害から国土を保全するという減災の役割を果たす。樹木の細い根は,生存に不可欠な養水分を吸収し,森林における物質・水循環を駆動する。自ら動くことのできない樹木は,変動する環境下で根を変化させながら適応し,土壌中の生物と共生することで生育する。すなわち樹木の根が,様々な生態系サービスを発揮する森林を,見えない土壌の中で支えているといえる。
 森の根に関する知見は,林業で対象とされてきた幹や葉に比べ著しく少なく,研究も立ち遅れており,樹木の根に関する教科書は,これまでほとんど例を見ない。本書は,「樹木の根を対象とする唯一の教科書」として,第一線の研究者が,樹木の根に関する基礎的知見について網羅的に,その手法や最新動向とともに紹介することで,樹木の根を介した森林生態系の新たな理解を広めることを目的とする。「樹木の根について知りたい」という読者に応えることが本書のねらいである。
 第1章から第3章までは,樹木根の基礎的な仕組みを,太い根や細い根などの機能や構造,成長特性を通して紹介する。第4章では変動する環境下における樹木根の反応を,第5章では根系の発揮する減災機能を取り扱う。終章で樹木根の発揮する生態系サービスをとりまとめ,持続可能な森林や社会への貢献を,樹木の根という視点から解説する。

目次

序章 森林を支える樹木根
はじめに
0.1 森林生態系における樹木根
0.1.1 地球システムと森林
0.1.2 樹木の根を研究する
0.2 本書のねらいと構成
おわりに
引用文献

第1章 樹木の根系と分布
はじめに
1.1 太い根と細い根
 1.1.1 粗根
 1.1.2 細根
1.2 根のバイオマス
 1.2.1 バイオマス
 1.2.2 樹木地上部との関係
 1.2.3 根系モデル
1.3 土の中の根の広がり
 1.3.1 個体の根の形態と分布
 1.3.2 深さ方向の分布
 1.3.3 水平方向の分布
1.4 様々な形態の根
 1.4.1 気候帯による違い
 1.4.2 特殊な根
おわりに
引用文献

第2章 樹木根の成長
はじめに
2.1 樹木根の構造と成長
 2.1.1 根の組織の基本構造と機能の変化
 2.1.2 個根の組織の変化と物質移動の制御
 2.1.3 分枝の形成
2.2 根の形質
 2.2.1 樹木の細根形質
 2.2.2 機能形質の測定とそれを用いての系統分類
 2.2.3 植物の経済スペクトル
2.3 根の季節動態
 2.3.1 根の成長の季節性の重要性
 2.3.2 根の成長時期の種間差
 2.3.3 根と枝の成長の季節性
 2.3.4 根の季節性へ影響を及ぼす温度以外の外的要因
2.4 森の根の競争
 2.4.1 根の競争が生じる原因
 2.4.2 対称型競争と非対称型競争
 2.4.3 林床の実生・稚樹と成木の間の競争
 2.4.4 他個体に対する成長抑制作用
 2.4.5 樹木とササの競争
2.5 根に関わる微生物
 2.5.1 樹木に関わる微生物
 2.5.2 樹木根系を脅かす微生物
 2.5.3 樹木根系に共生する放線菌
 2.5.4 樹木根系に共生する菌根菌
 2.5.5 森林生態系における菌根共生の意義
 2.5.6 まとめにかえて
おわりに
引用文献

第3章 物質循環と樹木根
はじめに
3.1 樹木根の水吸収
 3.1.1 樹木根が水を吸収する仕組み
 3.1.2 樹木根の水吸収機能の評価
 3.1.3 樹木根の水吸収研究における課題と展望
3.2 養分循環と樹木根
 3.2.1 森林における養分循環
 3.2.2 養分吸収機構
 3.2.3 養分環境と根の生産
3.3 炭素循環と樹木根―蓄積・生産・ターンオーバー―
 3.3.1 樹木根のバイオマスと炭素蓄積量の推定
 3.3.2 国内外における樹木根の炭素蓄積量
 3.3.3 細根の生産とターンオーバー
 3.3.4 細根バイオマス,細根生産量,細根ターンオーバー速度の推定手法
 3.3.5 細根生産量,細根ターンオーバー速度を変化させる要因
3.4 炭素循環と樹木根―樹体内配分と呼吸―
 3.4.1 炭素の根への配分
 3.4.2 呼吸を通して大気に戻される炭素
 3.4.3 同位体を利用した森林炭素配分様式の解明
3.5 樹木根の土壌化
 3.5.1 分解速度と分解呼吸
 3.5.2 可溶性成分
 3.5.3 分解残渣
 3.5.4 粗根の分解
 3.5.5 土壌有機物の滞留時間とそれを支配する要因
3.6 土壌食物網と根
 3.6.1 土壌動物と根
 3.6.2 根滲出物を利用する土壌生物
 3.6.3 菌根を利用する土壌生物
 3.6.4 生根を利用する土壌生物
 3.6.5 枯死根を利用する土壌生物
おわりに
引用文献

第4章 環境変動と樹木根
はじめに
4.1 大気CO2濃度およびO3濃度上昇に対する樹木根の応答
 4.1.1 大気CO2濃度の上昇に対する樹木根の応答
 4.1.2 対流圏O3濃度上昇に対する樹木根の応答
4.2 温度上昇に対する樹木根の応答
 4.2.1 地温上昇への応答
 4.2.2 山火事による温度上昇への応答
4.3 乾燥ストレス,滞水ストレスに対する樹木根の応答
 4.3.1 森林の乾燥ストレス
 4.3.2 乾燥ストレスに対する根の生理的反応
 4.3.3 キャビテーションとエンボリズム
 4.3.4 乾燥ストレスによる根の量的な変化
 4.3.5 森林の滞水ストレス
 4.3.6 滞水ストレス耐性に関わる樹木根の性質
4.4 土壌酸性化に対する樹木根の応答
 4.4.1 土壌酸性化
 4.4.2 実験条件下で土壌酸性化が樹木の根に与える影響
 4.4.3 土壌の酸性化が進行した森林における細根反応
おわりに
引用文献

第5章 樹木根の発揮する減災機能
はじめに
5.1 土壌侵食と樹木根
 5.1.1 土壌侵食の発生メカニズム
 5.1.2 森林植生の働き
 5.1.3 土壌侵食を抑制する管理方法
5.2 倒木と樹木根
 5.2.1 樹体を支える力を測る
 5.2.2 樹木の倒れにくさは何で決まる?
 5.2.3 樹木の倒れにくさが発揮する減災機能
5.3 表層崩壊と樹木根
 5.3.1 崩壊を抑制する力を測る
 5.3.2 根の補強強度は何で決まる?
 5.3.3 崩壊防止力の評価
5.4 植生管理への応用
 5.4.1 非破壊的な根系評価方法
 5.4.2 樹木根に着目した森林植生の管理
おわりに
引用文献

終章 樹木根と森林の生態系サービス
はじめに
6.1 生態系サービスと森林
 6.1.1 生態系サービスの定義と変遷
 6.1.2 樹木の根と生態系サービス
6.2 樹木根と持続可能な社会
 6.2.1 今後取り組むべき樹木根の課題
 6.2.2 持続可能な社会への貢献
おわりに
引用文献

索引

Box 2.1 森に棲む線虫
Box 2.2 外生菌根菌の働きを調べる
Box 2.3 菌根形成率の計測
Box 3.1 森林の炭素循環を家計の収支に例えると…
Box 3.2 炭素配分に関する用語の説明
Box 3.3 地下部炭素フラックス(TBCF)は,なぜ土壌呼吸Rsから
    リター量を差し引くことで求めることができるのか?
Box 3.4 葉と根の分解速度の調和
Box 3.5 樹木が細根を増産するとき,土壌には何が起こるのか
Box 3.6 黒色土
Box 3.7 葉の枯死過程
Box 3.8 地表面の攪乱