環境DNA―生態系の真の姿を読み解く― 

書籍情報
ISBN978-4-320-05816-3
判型A5 
ページ数300ページ
発売日2021年03月16日
価格3,960円(税込)
環境DNA 書影
環境DNA

新刊

 環境中に存在するDNAを調べることで,生物の分布情報を得ようとする「環境DNA技術」と呼ばれる分析手法が近年急速に発展している。環境水のみによる生物調査が実現できる環境DNA手法は,基礎・応用の両面において今後の生態学を大きく進展させる画期的な野生生物調査法として世界的に注目されつつある。国内では,2018年に一般社団法人環境DNA学会が設立された。
 本書は環境DNAを体系的に取りまとめた日本初の書籍である。本書は一般社団法人 環境DNA学会員ほか総勢27名により執筆され,環境DNAの研究手法からそれを用いた研究事例や大規模観測,そして新規技術の展望に至るまでを網羅する。これらの先駆的な内容を,大学生,環境コンサルタント従事者などにも分かりやすく紹介し,環境DNAの科学的な概念や知見を広く普及することを目的としている。
 本書では,最初に環境DNAの由来や環境DNA研究の歴史を振り返ったのち,両生類,魚類などのマクロ生物の環境DNAを種特異的検出する手法とその応用事例,そして環境DNAメタバーコーディング法と呼ばれる生物群集を網羅的に解析する手法とその応用事例を紹介する。その後,ANEMONEプロジェクトに代表される日本全国における環境DNAメタバーコーディングを用いた大規模観測について紹介する。最後に環境DNA学会の若手・学生会員が思い描く環境DNA研究の将来像について紹介し,今後の環境DNA技術の進展とその応用を展望する。本書には,環境DNAの教科書ともいえるような内容に加え,環境DNA研究の一線で活躍する研究者による最新の研究内容も盛り込まれており,興味深い内容となっているので,ご高覧頂ければ幸いである。

目次

第1章 環境DNA分析の概要
1.1 はじめに
1.2 国内外における環境DNA研究の歴史
 1.2.1 環境DNA研究のはじまり
 1.2.2 微生物以外の研究分野での適用
 1.2.3 環境DNA分析におけるパラダイムの転換
 1.2.4 国内における環境DNA分析の発展
1.3 環境DNA分析手法の概要
 1.3.1 採水・ろ過
 1.3.2 環境DNAの抽出
 1.3.3 環境DNAの検出法
 1.3.4 コンタミネーションとその対策
 1.3.5 PCR 阻害物質と抽出法・PCR 試薬の選択
1.4 環境DNAの性質と動態
 1.4.1 環境DNAの由来
 1.4.2 環境DNAの状態
 1.4.3 環境DNAの移流拡散
 1.4.4 環境DNAの残存性
 1.4.5 水以外に含まれる環境DNA
1.5 おわりに
引用文献

第2章 種特異的環境DNA手法
2.1 はじめに
2.2 研究例
2.3 種特異的検出における分析の流れと注意点
 2.3.1 検出に使うプラットフォームと検出原理
 2.3.2 プライマーの設計と種特異性の担保
 2.3.3 検出系の情報の記述
2.4 特定の種に着目した環境DNA分析の広がり
2.5 各種の検出技術と使い分け
 2.5.1 分析に要するコストと時間
 2.5.2 検出感度
 2.5.3 検出技術の使い分け
2.6 種特異的検出が活きる場面はどこか
 2.6.1 個体数・生物量の推定
 2.6.2 特定の生物種のセットをコンパクトに追跡
2.7 おわりに
引用文献

第3章 種特異的環境DNA手法の事例
3.1 はじめに
3.2 希少両生類研究とモニタリング
 3.2.1 調査対象種と手法
 3.2.2 結果と考察
 3.2.3 まとめ
3.3 コイ科魚類ハスの分布モニタリングと生物量の推定
 3.3.1 調査地と手法
 3.3.2 結果と考察
 3.3.3 まとめ
3.4 回遊魚研究とモニタリング
 3.4.1 シシャモ
 3.4.2 サケ
 3.4.3 イトウ
 3.4.4 まとめ:回遊魚研究の課題と展望
3.5 種内変異の検出
 3.5.1 日本コイ個体群におけるユーラシア大陸産外来集団の侵入レベルの推定
 3.5.2 日本在来集団とユーラシア大陸産外来集団の生態学的差異の検出
 3.5.3 まとめ:種内変異解析の動向と展望
3.6 おわりに
引用文献

第4章 環境DNAメタバーコーディング法
4.1 はじめに
4.2 DNAメタバーコーディングの原理と実際
4.3 MiFish法の現状と国内外での動向
4.4 MiFishプライマーの性能評価
 4.4.1 MiFishプライマー開発の背景
 4.4.2 3例の性能評価研究
4.5 MiFishプライマーの至適化
 4.5.1 PCRの取りこぼし
 4.5.2 近縁種間の識別
4.6 MiFish法に必要な実験環境と最新実験プロトコル
 4.6.1 実験環境
 4.6.2 最新実験プロトコル
4.7 新たな解析パイプラインとリファレンスデータベース
4.8 MiFish法の定量
4.9 MiFish法の応用
4.10 おわりに
引用文献

第5章 環境DNAメタバーコーディング法の事例
5.1 はじめに
5.2 湾スケールの魚類多様性を明らかにする
 5.2.1 調査地と手法
 5.2.2 結果と考察
 5.2.3 環境DNA分析の利点を知り,最大限に活かす
 5.2.4 まとめ
5.3 魚種多様性の高いサンゴ礁池における実践とその可能性
 5.3.1 調査地と手法
 5.3.2 結果と考察
 5.3.3 まとめ
5.4 琵琶湖周辺河川の魚類相:文献記録との比較
 5.4.1 調査地と手法
 5.4.2 結果と考察
 5.4.3 まとめ
5.5 湖沼における魚類環境DNAメタバーコーディング
 5.5.1 調査地と手法
 5.5.2 結果と考察
 5.5.3 まとめ
5.6 哺乳類の検出
 5.6.1 森林性の哺乳類の検出:森林の水場への着目
 5.6.2 熱帯低地林の塩場における哺乳類の検出
 5.6.3 哺乳類の新規生息地の特定
 5.6.4 陸域の哺乳類・鳥類・その他の生物の研究例
 5.6.5 まとめ
5.7 おわりに
引用文献

第6章 環境DNAを用いた大規模生態系観測:意義と展望
6.1 はじめに
6.2 生態系の複雑性
6.3 生態系の効果的な保全・管理に向けて
 6.3.1 種組成の把握
 6.3.2 生態系の状態評価
 6.3.3 時空間スケールの重要性
6.4 環境DNA技術の特徴と期待される役割
 6.4.1 高い分類解像度
 6.4.2 多地点・高頻度観測の実現
 6.4.3 多種網羅性の意義
6.5 高度生態情報社会の可能性とその道筋
 6.5.1 高度な生態系観測が果たす役割
 6.5.2 高度生態情報社会の実現に向けて
6.6 環境DNA観測網構築に向けて:ANEMONEの取り組み
 6.6.1 オープンデータと持続可能性
 6.6.2 環境DNA観測データの社会活用
6.7 おわりに
引用文献

第7章 環境DNA技術の未来
7.1 はじめに
7.2 種特異的検出
 7.2.1 個体や血縁ごとの分布状況
 7.2.2 個体の年齢や集団内の齢構成
 7.2.3 病気の感染状況や生理的状態の評価
7.3 環境DNAメタバーコーディング
 7.3.1 自動観測装置を用いた生物相のモニタリング
 7.3.2 未知種の探索
7.4 多様な研究分野との融合
 7.4.1 集団遺伝学・系統地理学╳環境DNA分析
 7.4.2 流体力学╳環境DNA分析
7.5 環境DNA分析の進展を支えるもの
 7.5.1 DNAデータベースの充実
 7.5.2 ハード面の技術革新
7.6 持続可能な社会の構築に対する環境DNA分析の貢献 
 7.6.1 生物多様性への理解促進と環境教育
 7.6.2 グリーンインフラの概念を念頭においた国土形成
7.7 おわりに
引用文献

あとがき

索引

コラム1 微生物の環境DNA研究
コラム2 環境DNA解析とバイオインフォマティクス:いま必要なこと,今後に向けて考えるべきこと
コラム3 環境DNA分析における手法の標準化
コラム4 環境DNAメタバーコーディング調査の活用:長崎県対島市での活用事例