森林と昆虫

書籍情報
シリーズ名森林科学シリーズ 全13巻 【9】巻
ISBN978-4-320-05825-5
判型A5 
ページ数232ページ
発行年月2020年12月
価格3,630円(税込)
森林と昆虫 書影
森林と昆虫

現在記録されている約100万種の昆虫のうちの多くの種が,森林に依存している。森林と我々人間の生活がかかわりを持つように,森林に生息する昆虫に対しても,人間の活動は,程度の強弱はあるものの,直接的あるいは間接的にかかわりをもつ。

かかわり合いの形は,原因や影響のタイプによって,4つに整理することができ,本書における部と章の構成のもととなっている。1つめは,開発による生息地や生育地の改変,あるいは人間の乱獲による種の減少や絶滅であり,人間による過剰な利用,つまりは使いすぎを意味するためオーバーユースともよばれる(第1部の第1章と第2章)。2つめは,人間による手入れの不足によって里地里山などの生息地の質が変化することがあり,これは,人間による利用の低下,つまりは次第に使われなくなることを意味するため,アンダーユースともよばれる(第2部の第3章と第4章)。3つめは,外来生物や汚染物質などの人間が持ち込んだものによって引きおこされる生息地の変化があげられる(第3部の第5章と第6章)。そして4つめは,気温の上昇をはじめとする気候の変化の影響である(第4部の第7章)。さらにこれら4つが複合したかかわり合いの形も存在する(終章)。

こうした異なるかかわり合いの視点から,本書では,森林や樹木に依存している昆虫への影響について解説していくことを試みた。多くの場合,以上の要因とその影響は,昆虫にとっての危機として扱われるかもしれない。一方で,各要因や関連事項を科学的にうまくとらえ,昆虫との関係性を明らかにすれば,森林の昆虫の多様性や種の保全や管理にとって,大きなチャンスともなりえる。

目次

序章 森林と昆虫(尾崎研一・滝 久智)
はじめに
0.1 森林と昆虫の多様性
  0.1.1 昆虫の多様性
  0.1.2 森林昆虫の多様性
0.2 変化要因としての第1,第2,第3,第4の生物多様性への危機
  0.2.1 オーバーユース
  0.2.2 アンダーユース
  0.2.3 人によって持ち込まれた生物やもの
  0.2.4 気候変動
0.3 森林の変化について
  0.3.1 世界の森林
  0.3.2 日本の森林
おわりに

【第1部 オーバーユース】

第1章 森林減少や改変による影響(曽我昌史)
はじめに
1.1 森林改変がもたらす三つの影響
  1.1.1 生息地の消失
  1.1.2 生息地の分断化
  1.1.3 人工林の拡大による生息地の劣化
1.2 森林改変と他の人為影響の関係
1.3 タイムラグを伴う森林改変の影響:絶滅の負債
1.4 森林改変に敏感な昆虫種
1.5 希少種の消失と生物相の均質化
1.6 森林改変が生態系機能・サービスに及ぼす影響
  1.6.1 花粉媒介
  1.6.2 種子散布
  1.6.3 物質循環
  1.6.4 害虫抑制
1.7 森林改変が生物間相互作用に及ぼす影響
1.8 森林景観における昆虫類の保全に向けて
  1.8.1 自然保護区
  1.8.2 緑の回廊(コリドー)
  1.8.3 マトリクス管理
おわりに

第2章 乱獲による影響(滝 久智)
はじめに
2.1 乱獲とは
2.2 乱獲の原因
2.3 乱獲の影響
2.4 乱獲の対策
おわりに

【第2部 アンダーユース】

第3章 林業活動の低下による影響(大澤正嗣)
はじめに
3.1 薪炭林,シイタケ原木生産林のアンダーユース
3.2 木材生産を主な目的とした森林(人工林)のアンダーユース
  3.2.1 人工林の高齢化
  3.2.2 間伐の遅れと切り捨て間伐
  3.2.3 伐採地の減少
3.3 森林のアンダーユースによる材生息性害虫の蔓延
  3.3.1 枯死材の増加と材生息性害虫による被害
  3.3.2 マツ材線虫病(松くい虫)
  3.3.3 ブナ科樹木萎凋病(ナラ枯れ)
3.4 森林のアンダーユースによる野生獣類の増加とそれに伴う昆虫多様性の変化
おわりに

第4章 里地里山の利用変化による影響(田渕 研)
はじめに
4.1 里地里山とSATOYAMA
  4.1.1 ムヨン
  4.1.2 デエサ
  4.1.3 テロワール
  4.1.4 チテメネ
  4.1.5 世界のSATOYAMAの比較:里山の指標にもとづく類型化
4.2 里山のアンダーユースの現状
  4.2.1 日本における里山のアンダーユース
  4.2.2 世界のSATOYAMAにおけるアンダーユース
4.3 里地里山でのアンダーユースが昆虫類に及ぼす影響
  4.3.1 里地里山の複合生態系
  4.3.2 森林生態系と農地生態系
  4.3.3 森林生態系と湿地生態系
4.4 里地里山のアンダーユースと生物多様性保全
おわりに

【第3部 外来の生物やもの】

第5章 外来昆虫による影響(井手竜也)
はじめに
5.1 侵入経路
5.2 定着
5.3 害虫化
5.4 間接的な影響
5.5 樹木の害虫となったさまざまな外来昆虫
  5.5.1 穿孔性昆虫
  5.5.2 吸汁性昆虫
  5.5.3 食葉性昆虫
  5.5.4 虫こぶ形成昆虫
5.6 蔓延を防ぐ対策
おわりに

第6章 人によって持ち込まれたものによる影響(滝 久智)
はじめに
6.1 森林生態系における物質動態の特徴
6.2 農薬
6.3 重金属
6.4 放射性物質
おわりに

【第4部 気候変動】

第7章 気候変動による影響(徳田 誠)
はじめに
7.1 分布域や個体数の変化
  7.1.1 気候変動に伴う分布や生息密度の時空間的変化
  7.1.2 樹木害虫における分布域や分布標高の変化
  7.1.3 チョウ目昆虫において世界的に見られる極地方向への分布域の変化
  7.1.4 チョウ目昆虫における分布標高の変化
  7.1.5 ミナミアオカメムシの北進とアオクサカメムシの南衰
  7.1.6 侵入害虫における分布域の変化
7.2 発生時期や年間世代数の変化
  7.2.1 フェノロジーの長期観測データ
  7.2.2 チョウの出現時期の変化
  7.2.3 アブラムシの出現時期の早期化および出現期間の長期化
  7.2.4 休眠を誘導する臨界日長の変化
  7.2.5 年間世代数の変化
7.3 遺伝子頻度や種間相互作用の変化
  7.3.1 遺伝子頻度の変化
  7.3.2 昆虫と寄主植物との同時性
  7.3.3 昆虫と捕食者や捕食寄生者との同時性
7.4 地球温暖化の影響予測
  7.4.1 異なる地点間での比較
  7.4.2 仮想温暖化実験
  7.4.3 モデルによる予測
7.5 気温以外の要因の影響
  7.5.1 気候要因の変動幅
  7.5.2 二酸化炭素濃度の増加
  7.5.3 都市化や乾燥化
おわりに

【第5部 複合影響】

終章 複合要因による影響(牧野俊一)
はじめに
8.1 マツ材線虫病(松枯れ)
  8.1.1 主因
  8.1.2 副因
8.2 ブナ科樹木萎凋病(ナラ枯れ)
  8.2.1 主因
  8.2.2 提唱されている主な副因
8.3 大規模な森林被害の波及効果
  8.3.1 在来種への影響
  8.3.2 エコロジカルトラップ
  8.3.3 森林生物群集への影響
おわりに

索 引