森林と野生動物

書籍情報
シリーズ名森林科学シリーズ 全13巻 【11】巻
ISBN978-4-320-05827-9
判型A5 
ページ数300ページ
発行年月2019年02月
本体価格3,500円
森林と野生動物 書影
森林と野生動物

動物は各時代における,人間と森林との関係,人間の野生動物への姿勢に敏感に反応してきた。そして,個体数をダイナミックに変化させ,それに応じて林業の加害の主役を交代させてきた。一方で,中山間地から都市にかけての地域や脆弱な島嶼生態系では,分布を確実に広げる野生動物の存在や外来種の暗躍といった新たな野生動物問題が次々と現れている。それらの解決へ向けて,動物の生息場所である森林には重要な役割が期待され,21世紀の日本の森林には,第1次産業である林業が国土や生態系の維持と保全に貢献することとともに,森林の居住者である野生動物と共存すること,山から溢れ出る動物をとどめおくこと,外来種が引き起こす生態系の崩壊を最小限にすることが求められている。各動物の生態を深く理解したうえで多種多様な保全策・防除策を定めなくてはならず,より広い視野から,森林生態系管理の一環として野生動物の保護管理を行うことが絶えず必要とされている。

本書はこれらの一助となる書籍である。動物の住処としての森林,森林で動物が果たす役割,人間をめぐる森林と動物の関係,森林と動物をめぐる様々な関係を概説したうえで,これまで林業の加害獣として扱われることが多かった野ネズミ類・ノウサギ類・ニホンジカ・ツキノワグマ・ニホンカモシカ,そして生活が森林と強くかかわっているコウモリ類についてまず紹介する。次に,農地,都市,島嶼の野生動物の問題およびそこでの森林と野生動物との関係について取り上げ,最後にこれからの野生動物管理について説明する。

目次

序章 森林と動物,そして人間をめぐる関係(小池伸介)
はじめに
0.1 動物の住処としての森林
0.2 森林で動物が果たす役割
0.3 人間をめぐる森林と動物の関係
おわりに


【第1部 森林における野生動物の現状と変遷】

第1章 野ネズミ類とノウサギ類(山田文雄)
はじめに
1.1 わが国の森林の変遷
  1.1.1 北海道の森林の変遷
  1.1.2 本州以南の森林の変遷
1.2 森林被害を起こす野ネズミ類
  1.2.1 北海道のエゾヤチネズミ
  1.2.2 本州のヤチネズミ
  1.2.3 本州・四国・九州のスミスネズミ
  1.2.4 本州・九州のハタネズミ
  1.2.5 北海道の野ネズミ被害と対策
  1.2.6 本州などの森林と野ネズミ被害
1.3 森林被害を起こすノウサギ類
  1.3.1 北海道のエゾユキウサギ
  1.3.2 本州,四国,九州のニホンノウサギ
  1.3.3 ノウサギ類による被害と対策
  1.3.4 ノウサギ生息数の減少と生態系への影響
1.4 野ネズミ類やノウサギ類における生息数変動と変動メカニズム
  1.4.1 野ネズミ類の生息数の周期的変動
  1.4.2 ノウサギ類の生息数の周期的変動
1.5 野ネズミやノウサギの被害対策としての生物的防除と外来種問題
  1.5.1 野ネズミ被害対策の事例
  1.5.2 ノウサギ被害対策の事例
  1.5.3 天敵導入されたニホンイタチやニホンテンの外来種問題化
おわりに

第2章 ニホンジカ(山根正伸)
はじめに
2.1 分類・分布・形態
2.2 多様化・拡大する森林被害
  2.2.1 さまざまな森林被害
  2.2.2 森林被害の発生状況
2.3 森林被害が激化・拡大した背景
  2.3.1 明治期から太平洋戦争前後までの分布変遷
  2.3.2 太平洋戦争後から昭和40年代までの分布変遷
  2.3.3 昭和50年代以降の生息動向
2.4 森林被害がなぜ激化するのか
  2.4.1 採食生態
  2.4.2 餌植物の特性
  2.4.3 密度増加と過採食
2.5 森林被害の軽減に向けた3つのアプローチ
  2.5.1 個体数調整
  2.5.2 被害防護
  2.5.3 生息地の操作
おわりに

第3章 ニホンカモシカ(常田邦彦)
はじめに
3.1 生物学的特徴と保護管理
  3.1.1 分類・形態・地理的分布
  3.1.2 カモシカとシカの生態学的特徴
3.2 生息動向と被害および被害対策
  3.2.1 分布と個体数
  3.2.2 森林被害の特徴と被害動向
  3.2.3 被害防除
  3.2.4 個体数調整
3.3 カモシカ保護管理の歴史
  3.3.1 資源利用と乱獲(1876~1925)
  3.3.2 密猟横行期(1925~1959)
  3.3.3 絶対保護期(1959~1979)
  3.3.4 科学的保護管理の探求期(1979~)
3.4 カモシカ保護管理の到達点と課題
  3.4.1 保護管理体制の現状
  3.4.2 カモシカ保護地域はどのような場所に設定されているか
  3.4.3 カモシカをめぐる状況の変化:保護地域のモニタリングから見えてくるもの
おわりに:これからの課題

第4章 ツキノワグマ(小池伸介)
はじめに
4.1 ツキノワグマの生息状況
  4.1.1 分布
  4.1.2 捕獲数
  4.1.3 生息環境としての森林
  4.1.4 人間活動との軋轢,特に人身事故
4.2 ツキノワグマの生態:特に森林とのかかわりに注目して
  4.2.1 食性
  4.2.2 行動
  4.2.3 冬眠
4.3 ブナ科堅果とツキノワグマ
  4.3.1 食性への影響
  4.3.2 行動への影響
  4.3.3 生理的な影響
4.4 ツキノワグマによる林業被害
  4.4.1 樹皮剝ぎ行動とは
  4.4.2 樹皮剝ぎ行動の原因
  4.4.3 樹皮剝ぎ対策の変遷
4.5 ツキノワグマによる種子散布者としての役割
  4.5.1 種子散布者としての特徴
  4.5.2 種子散布過程をめぐる他の生物種とのかかわり
おわりに

第5章 森林景観におけるコウモリの多様性と保全(福井 大)
はじめに
5.1 コウモリとは
5.2 ねぐらとしての森林とコウモリ
5.3 採餌場所としての森林とコウモリ
5.4 森林における食虫性コウモリの生態的機能
5.5 植物食コウモリの生態的機能
5.6 森林の改変とコウモリの応答
  5.6.1 森林伐採の影響
  5.6.2 生息地の分断化および面積の影響
おわりに


【第2部 農地,都市,島嶼における野生動物問題】

第6章 農村・都市へ進出する野生動物(江成広斗)
はじめに
6.1 農村・都市で今何が起きているのか
  6.1.1 農村
  6.1.2 都市
6.2 問題の背景を探る
  6.2.1 なぜ野生動物は分布を広げるのか:地理的分布の拡大
  6.2.2 なぜ野生動物は分布を広げるのか:山を下る哺乳類
おわりに

第7章 都市化と哺乳類の関係を探る(斎藤昌幸)
はじめに
7.1 都市化と中大型哺乳類の分布:東京周辺の都市化傾度の影響
7.2. 都市や都市近郊の森林における哺乳類の生態研究事例
  7.2.1 都市化と個体数密度・行動圏
  7.2.2 都市化による移動・分散の制限
7.3 都市で生じる軋轢:外来種問題と獣害
おわりに

第8章 外来捕食者が島で引き起こす静かで大きな変化(亘 悠哉)
はじめに
8.1 島嶼森林生態系で起きている静かで大きな変化
  8.1.1 救世主から害獣へ:マングースによる希少種の衰退
  8.1.2 ペットも外では侵略的外来種:ネコに翻弄される島々
  8.1.3 島では外来生物:国内外来種ニホンイタチの暗躍
  8.1.4 意外な捕食者:世界自然遺産に影響を与えるクマネズミ
8.2 外来種のインパクトが島嶼で強い理由
8.3 外来種対策の原則と現実
おわりに


【第3部 これからの森林での野生動物の保全と管理】

第9章 情報化社会における哺乳類の空間解析:今後の展望(今木洋大)
はじめに
9.1 哺乳類の野外調査方法の変遷
  9.1.1 ラジオテレメトリ法
  9.1.2 アルゴスシステムによる全球調査
  9.1.3 GPSの登場
  9.1.4 センサネットワーク調査
9.2 生息地調査の変化
  9.2.1 人工衛星による生息地のリモートセンシング
  9.2.2 ドローンの登場
9.3 ビッグデータ時代のデータ解析環境
  9.3.1 オープンソースソフトウェアの台頭
9.4 データ社会の血液,オープンデータ
  9.4.1 オープンな動物の位置データ
  9.4.2 日本のオープンデータ
  9.4.3 オープンデータとは?
  9.4.4 オープンデータを活用する市民活動
9.5 ビッグデータ時代のデータインフラ
  9.5.1 クラウドコンピューティングの登場
  9.5.2 位置情報のクラウドサービスCARTO
  9.5.3 ランドサット画像をすべて飲み込んだGoogle Earth Engine
9.6 ビッグデータ時代のデータ解析技術
  9.6.1 人工知能,機械学習,そしてディープラーニング
  9.6.2 人工知能を使った野生動物の調査
おわりに

第10章 変わりゆく森林・林業と野生動物(山浦悠一)
はじめに
10.1 人工林による天然林の分断化
10.2 人工林における生物多様性の保全の意義
10.3 人工林の成熟
10.4 草地と遷移初期種の全国的な減少
10.5 伐採地,幼齢林の生態学的価値
10.6 生物多様性の保全に配慮した人工林の伐採手法
おわりに

索 引