本書はMildred BlaxterによるHealth,Polity Press 改訂第2版(2010)の全訳である。初版との大きな違いは,特に第3章と第6章が大幅に書き換えられたこと,社会学の行き過ぎと感じさせる説への補足や修正が増えたことである。なお,改訂に際して削除され過ぎたため却って意味不明瞭になったところが多々あり,訳出に当たっては,訳者の責任で初版のままにしたところもある。
本書は急性病から慢性病,変性疾患という疾病構造の変化の中で,健康に関する20世紀後半の諸説や理論を鳥瞰したものである。その基本的なスタンスには,近代以降,健康を考える上で強い力をもってきた生物医学に対する批判があり,批判するにあたっては,社会学的なアプローチがとられている。社会モデルを用いて健康の多様な側面が捉えられ,健康の生成や病気の発生に社会的要因や行動的要因が強くかかわっているということだけでなく,健康と病気の概念の背景にある正常と異常の定義自体が社会的,文化的,歴史的に規定されたものであることが指摘される。
そうした考察の延長線上で,健康が素人の考え,経験,行動とのかかわりで,さらには社会資本や危険社会などとのかかわりで捉えられているが,これらが豊富な経験的データに基づいて展開されていることが大きな特徴といえる。