最初のプログラム可能な汎用電子計算機と知られるENIAC(Electronic Numerical Integrator and Computer)は,1943年に構想され,1945年に完成,そして1955年には解体された。その後の開発者らによる特許紛争などにより,最初のプログラム可能な計算機かどうかといった論争だけが今日では記憶に留められがちであり,そのような観点から書かれた成書も数多くある。
しかし,ENIACは,現代的な計算機への道程にある単なる通過点ではない。著者らは,ENIAC を,戦時の機械,「最初の計算機」,その利用者が継続的に手直ししつづけた物質的人工物,そして矛盾を含んだ史話の対象ととらえ,残された記録資料原本を広範囲に調査することによって,ENIAC の構想から,設計,構築,利用,そして博物館に展示された遺品となるまでの詳細な物語をまとめ上げた。
また,ENIAC の物語は,ENIAC に携わった人々の物語である。ENIAC を構築し,プログラムし,操作した人々,とくに,そうしたことで有名になった女性たちだけでなく,ENAIC を提案,設計した数学者,科学者,技術者について記述することで,今まで光が当てられることの少なかったENIACの歴史の細部を明らかにしていく。
(原著:ENIAC in Action: Making and Remaking the Modern Computer, MIT Press, 2016.)