研究者が教える動物飼育 全3巻

編集:針山孝彦・小柳光正・嬉 正勝・妹尾圭司・小泉 修・日本比較生理生化学会

 「生物の飼育を通して知る 命の 尊さ・儚さ・逞しさ!」
日本人は古くから自然を愛し、自然と共に生きてきた。日本庭園に代表されるように、日本人は自らが存在している場所を自然と区別するのではなく、自然の一部となることを享受していた。ところが、産業革命以来発展を続けた欧米文明の進入の後に富国強兵時代を過ごし、自然と共に生きるのではなく自然を利用することに没頭し、自然破壊を重ねるようになってしまった。巨大エネルギーを必要とする社会構造を構築し、原発事故で象徴される人のコントロールを超えたエネルギー利用にまで手を染めなくてはならない時代を作り上げてしまったのだ。眼前の利益中心の生活が迎える末路は、誰にでも予想できる悲惨なものになる。この現実を乗り越えるために、私たちはあらためて自然とは何かを学ばなければならない。
自然を学ぶ醍醐味に、動物と共に過ごすという日々がかつてあった。虫篭に入れた虫たちの声に耳を澄ますだけでなく、残酷な形でカエルやザリガニを解剖し、川でフナを釣り山でウサギを追った時代があったのだ。それらの遊びを通し、生き物がもつ生命の淡さと逞しさを知り、生き物の仕組みを体感し、物理学と化学の上になりたった生物の不思議さと生命の尊さも実感できていたのだ。それらが失われた今、どのように自然観を取り戻せばよいか。
本シリーズは、生物研究にどっぷりと浸かり、生命の仕組みについての研究を続けている研究者が動物の飼育法を語る。95種の動物たちを知り尽くした著者がそれぞれの飼育法について語り、そこに書ききれなかったトピックスなどをコラムとして折り込んでいる。単細胞生物から哺乳類までを一堂に集めた飼育法である。行間にあふれる著者たちの生命に対する畏敬の念を、読者は本書を手に取ったときに感じるだろう。そして、研究者というプロが作り上げたノウハウを、自ら試してみてもらいたい。その方法で動物を飼育したとき、日本人としての自然観と、科学的生命観を学ぶことができるに違いない。飼育を通してのみ見える生命があるのだ。今、本書が出版されることは、自然観が薄らぐ現代においてタイムリーなものであるといえる。日本人が良き自然観を取り戻し、世界に誇れる「生命を大切にする国になること」を祈っている。

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